合法的に"人をカモるビジネス"横行するカラクリ 「認知的な脆弱性を抱える人」が大被害に遭う

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
拡大
縮小

私はけっきょく、300ドルのクーポンだけもらって彼の申し出を丁重に断った。それで豪華なディナーを楽しむことができたのは、“元ネタ”を知っていたからだ(ちょっと計算すればわかるが、タイムシェアのリゾートはものすごく割高な買い物で、経済的な合理性はない)。

どんな巧妙な手品も、最初に種明かしされればだまされることはない。

本書のいちばんの価値は、同じような場面で、「なるほど、ここではこういう心理テクニックを使っているのか」と気づけることだ。「知は力なり」で、これだけでじゅうぶん購入代金の元は取れるだろう。

小さな損失を受け入れる

企業が心理マーケティングに習熟するにつれて、わたしたちは「いつどのようにだまされるかわからない」という疑心暗鬼に陥ってしまった。著者たちは、「現代の企業は、欺瞞的な手法を標準的な業務手順として採用している。もはやビジネスの世界では、合法と非合法の境界線があいまいになっている」と述べている。

だが、つねに他人を疑っているようだとせっかくの機会を失ってしまうかもしれないし、それ以前に幸福な人生を送るのが難しくなるだろう。この難問に対して著者たちは、「社会でのやり取りのほとんどは、誠実な人との間で行われる」し、「不正行為をされたとしても、その影響は小さいことが多い」という。

このアドバイスを私なりに解釈すると、だまされるのは「脳の仕様」なのだから、完璧を求めて大きなコストをかける(すべてを疑う)のはムダで、小さな損失を受け入れたほうが(どうせ避けようがないのだから)人生の幸福度は高くなるということだろう。デパートやオンラインショップのセールでいらないものを買ってしまったとしても、人生にさしたる影響はない。

だが場合によっては、真剣に考えなくてはならないこともある。それは、大きな出費をともなう取引を行うときだ。詐欺的な商法によって数百万円、あるいは数千万円を失ってしまうと、取り返しのつかないことになる。

これについての私の対策はシンプルで、「大きな買い物はしない」になる。本書には有益なアドバイスがたくさんあるが、これは書いていないのでつけ加えておきたい。

橘 玲 作家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たちばな あきら / Akira Tachibana

2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。新書大賞2017受賞の『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)ほか、近著の『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)などベストセラー多数。公式サイト http://www.tachibana-akira.com/

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT