「セクシー田中さん」詳細が公表されぬ4つの理由 日テレと小学館、本当に「責任逃れ」狙いなのか

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ただ、テレビ局と出版社の関係性を円満に保つことは、必ずしも原作者の利益を守ることにはつながりません。たとえば、「両者の関係を円満に保とうとして原作者に不本意な条件を受け入れてもらう」というケースは、これまで何度か原作者たちが批判の声を上げていました。もしこの理由で両社が今回の経緯を調べ直し、公表しないとしたら、世間から批判を受けても仕方がない感もあるのです。

“表”に出ない原作者の声もある

両社がなかなか動かない4つ目の理由は、「ネット上などの表に出にくい声も聞いている」から。

現在ネット上の記事やSNSに書かれているのは、日本テレビや小学館に対する疑問や批判ばかりで、それ以外の声は「表に出づらい、出しづらい」という状況が続いています。実際、漫画家や脚本家などが疑問や批判していますが、各出版社の周辺で原作者の声を聞き込みしていると、これらとはまったく別の声も聞こえてきました。

原作者の声の中でも目にとまったのは、「『セクシー田中さん』の件は何らかのトラブルがあったかもしれないけど、自分はこれまで通りのやり方でいい」という現状維持の声や「映像は原作とは別物なので、できるだけ自由にやってもらえたら」という尊重の声。また、彼らの中には「『セクシー田中さん』の経緯を調べたところで、芦原さんの名誉が回復されるわけでも、再発防止につながるわけでもないと思う」と語る人もいました。

ある漫画家は「原作者にも個人差がかなりあるから、相手を見て配慮すべき人にはしてほしいけど、自分たちは映像の素人。配慮されすぎると映像化する意味が損なわれてしまう」と語っていました。現在の流れでは、彼らのような人が表の場でこのような声を発信することは難しいところもあるでしょう。

テレビ局と出版社としては、現在放送中のドラマや春、夏、秋、あるいは来年スタート予定のドラマ化作品もあり、すでに多くの人々がかかわって動いているという現実があります。その現実や表に出ない声も踏まえたうえで、「経緯は調べても世間に公表しない」という判断に留まっているところがあるのかもしれません。

しかし、このような声はテレビ局や出版社以外の人々には届きづらく、「経緯を調べ直して公表してほしい」という現在の空気が変わったわけでもないだけに、この理由で騒動の鎮静化を期待するのは無理があるでしょう。

今回のコラムでは経験と取材をベースに現在の状況を客観的に挙げていきました。現在の対応に不満を抱き、批判したくなる気持ちは理解できますが、本当に大切なのは何なのか。

故人や遺族を最大限に尊重するためには、何をして何をしないべきなのか。経緯を調べ直し、世間の人々が知ることはどれくらい必要なのか。最優先すべきは日本テレビと小学館が具体的な改善策を早急に出すことではないのか。今発している言葉は日本テレビと小学館を糾弾することが目的になっていないか。

正義感などではなく、今回の件に関心を持った私たち全員が今一度、冷静になって考えたほうがいいのではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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