山崎元、余命宣告されて伝えたかった「幸福」の正体 「豊かさ・お金」と「自由」があればいいのか?

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父の観察はどうしても男性に偏るが、有名人や世間的には成功者でも、「この男はモテなくて性格がひねくれた」、「この男は若い時にモテなかったので、こじれた性格になった」と思わせる人物が実に多い。実名は挙げないが、あの人も、あの人も、モテなかったおかげで性格が歪んでしまったことが手に取るように分かる。

父自身は、20代、30代の切実にモテたかった時期にモテなかった悔しさをそれなりに味わっている。だが、「モテない」の度合いは幸い性格を歪めるほどにはひどくなかった(と思っているが、どうだろうか?)。

その後「モテ」が生理的にそれほど切実でなくなってから、状況が少し改善した。従って、「モテない男」の気持ちはもともとよく分かるし、「モテる男」の気持ちもほんの少しだけ分かるようになったつもりでいる。

女性において「モテ」がどれくらい大切なのかは、実感としては分からない。だが、たぶん、男性の場合に近いくらい重要な要素なのだろうと推測できる。

NHKに『ダーウィンが来た!』という番組がある。さまざまな動物の生態が紹介されるのだが、生まれて、厳しい環境をくぐり抜けて運のいい個体が成長し、ほぼ生殖の相手を得るためにだけ競争して死んでいく。特に雄はそうだ。人間もこれに近いのではないか。

モテない男は幸せそうに見えない。

人間の幸福感は「モテ」にかなり近い場所に根源があるらしいが、別の例を考えてみよう。

経済原理性に優先する大きな価値とは

よくある疑問だが、「経済学部の最優秀に近い学生は、実業界に就職したら大いに稼げるだろうに、どうして経済学者を目指すことがあるのだろうか。それは、経済原理に反していないか?」。

論理の上では、効用関数は融通無碍なので「経済原理に反する」ということはないのだが、不思議な現象ではある。

それは、「経済学の研究に加わっている自分と、仲間内からもらえる賞賛」に大きな価値があると感じるからだろう。

「フェラーリを一台貰うよりも、いい論文が一本書けて最高レベルの学術誌に採用され、仲間に賞賛される方が遥かに嬉しい」と思う経済学者は少なくあるまい。「仲間内の賞賛」は、大きな経済価値の期待値に勝る喜びなのだ。

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