密約で延命、密約無視で居座る「二重の不正義」

密約で延命、密約無視で居座る「二重の不正義」

塩田潮

 国会は8月末まで70日間、延長された。菅首相の進退について、これで遅くても8月までに退陣・首相交代と見る説と、9月下旬以降の総選挙を視野に解散の意図ありと疑う説の2つの見方が錯綜する。

 「辞めない首相」の暴走がいつ止まるのか、誰もわからない。

 出発点は鳩山前首相との「密約」に基づく「退陣承諾表明」と引き換えに内閣不信任案否決を果たした6月2日の茶番劇だったが、戦後の歴史を振り返ると、政権の行方に密約が絡んだ有名な事例が2つある。

 1つは1959年、岸首相が「安保改定実現で退陣。後任は大野伴睦氏」と約したといわれる「政権たらい回しの密約」、もう1つは「ポスト三木」の後継候補の福田赳夫氏と大平正芳氏による76年の「2年交代の密約」だ。2例とも当事者と立会人が署名し、文書にされたが、約束に守られなかった。岸首相は退任時、大野政権実現に動かず、福田首相も就任2年後の交代を拒否し、大福決戦の総裁選に突入した。

 密約はもともと国民不在、破約が当たり前という意見も強いが、今回の「鳩菅密約」は過去の2例と大きな違いがある。

 「政権たらい回し」も「大福2年交代」も1~2年後を想定した話で、以後の事情の変化などを理由に、密約成立時の基盤が崩れたと主張し得る要素があった。さらに、密約の後、1年以上、関係者が秘密を守り、密約の存在もその内容も表面化しなかった。

 ところが、今回は直後の不信任案の可否をめぐって密約が交わされ、当事者の鳩山前首相がすぐに代議士会という公の場で「約束」を明確にし、中身の「確認事項」も瞬時に公表された。それに対して、菅首相は退任時期の確約がないことを逃げ道に延命を策し続けるものの、さすがに密約自体の否定までは踏み込めない。

 いま菅首相は国民無視の密約で延命し、その約束も無視して居座るという二重の不正義の下に政権を維持している。

 加えて、その場しのぎの菅首相には、岸首相の「安保改定」や福田首相の「第1次石油危機後の世界同時不況克服」のような政権が目指す大義が見当たらない。密約後に1年半~2年の在任を果たした両元首相のようなわけにはいかない。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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