「餃子の王将」20カ月連続売り上げ更新の理由 「個店の味からチェーンの味へ」変貌を遂げた

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同社においては「日常食を提供する義務がある」と、全店における品質の見直しを行ったことがこれにあたる。

もっとも同社の業績好調の要因はほかにもいくつかある。まず、メイン商品の餃子がテイクアウトや宅配に向いたアイテムだったことが挙げられる。

2019年頃にテイクアウト用の容器を改良。汁などがもれないよう、きっちり密閉できるようになっている。ラーメンは麺とスープを分けて入れ、麺の伸びを防止。すべて容器ごと電子レンジでの温め直しが可能(撮影:梅谷秀司)

価値とは値段だけのものではない

また、たまたまであるが、同社では2018年からテイクアウトやデリバリーの市場を試験的に模索しており、持ち帰り容器の改良を行っていた。さらに軽減税率対策として、キャッシュレスや事前決済への対応も始めていた。そのためいち早く2021年6月に、テイクアウト専門の新業態「ジョイ・ナーホ」の第1号店を立ち上げることができている。

これらが功を奏し、コロナ禍でも業績を大きく落とすことなく、設備、人材投資を行うことができたわけだ。

今回述べてきたように、フランチャイズ店を含めた教育制度も確立できた。これを受け、同社は今後フランチャイズ店の募集を強化し、店舗拡大を図っていくという。さらに現在台湾の2件の店舗に加え、2025年をめどにもう1店出店の見込み。そのほかアジア圏を中心に、海外への出店も増やしていきたいという。

王将フードサービス代表取締役社長渡邊直人氏。2013年に現職に就任してから、商品品質の向上や労働環境の改善など、各種改革に取り組んできた(撮影:梅谷秀司)

人口が減少し、国内の外食市場は先細りとも言われている。その中で消費者に選ばれる店であり続けるために、各社、知恵を絞っていく必要がある。とくに我が国では、「安くておいしい」はすでにスタンダード。コスト面で有利な大手チェーンが創り上げてきたスタンダードと言えるだろう。同社においてもこの10年をかけた取り組みが今、結実してきたということになる。

私見だが、①食べ物への愛情、②食べ物を通じて人を幸せにしたいという気持ち、③おもてなしの心、この3つは、飲食店において欠かせない要素だ。

客にとって、価値とは値段だけのものではない。食事という機会が幸せな時間になるかどうかは、飲食店にかかっている。

このような理念の浸透は規模が大きくなるほど難易度が高いだろう。大手チェーンにとって次なる課題は、このあたりではないだろうか。

※価格はすべて東日本エリアイートイン時の税込み価格

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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