セキュリティー業界で超大型のM&Aが相次ぐワケ ジェン・デジタル社長に聞く業界の最前線

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――ノートン・ライフロックとアバストは、サイバーセキュリティー業界の中でも企業向けではなく、個人消費者に特化した事業を展開していました。2社が合わさった強みとは?

まず強みとしては、2社の製品の連携(コンビネーション)を作ることができる点だ。もともと2社には強いブランド力があった。とくにノートンはアメリカ、日本で強い。アバストはヨーロッパや南アメリカに強みを持つ。

製品群で見ても、ノートンはセキュリティー、ID(個人情報)に強い。アバストはセキュリティー、プライバシー保護に強みを持つなど、それぞれ独自性を持った製品を展開している。こうしたものが合わさることで、顧客である一般消費者をより強く、パワフルな形で守ることができる。

また、(サイバー攻撃の状況を分析する)セキュリティーのインテリジェント・ソースの数が多くなったことも、大きなメリットだ。

――2社の統合から1年が経った。統合の状況はどうか。

社内の構造では間接部門、マネージメント層の統合は完了し、1つの会社となった。製品群としては、一元化されたシングルプラットフォーム上で製品を提供したいと考えており、現在開発が進行中だ。来年の完成を計画している。

――製品を通して、「サイバーセーフティーを提供する」とアピールしている。一般に言う、サイバーセキュリティーとは何が違いますか。

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サイバーセキュリティーは一般的に使われているが、サイバーセーフティーは、われわれの造語だ。

われわれのビジョンは、ユーザーがデジタルの世界を本当の意味で自由に楽しんでもらうため、セキュリティーを含めた、安全性(セーフティー)を提供するソリューションを提供したいということ。そのため、サイバーセキュリティーという言葉は、サイバーセーフティーの中に含まれている。

サイバーセーフティーは、個人情報保護、(PCやスマートフォンなど)デバイスのセキュリティー、プライバシーの保護、(余計なファイルなどを整理してパソコンの性能を向上させる)パフォーマンスという4つの領域からなっている。

デバイスを守るだけではなく、個人情報やプライバシー守ることで、デジタルライフを楽しむ際に妨げるものから守っていきたい。

アメリカではID保護製品が売れている

――日本でもウイルス対策ソフトは一般的だが、個人情報やプライバシーの保護にお金を払おうという消費者は、まだあまり多くありません。世界的にみれば一般的なことでしょうか。

アメリカではIDの盗難やなりすましが多くあり、IDアドバイザー(注:個人情報の流出や不正利用をモニタリングする製品)が、とても売れている。

というのも、最近は家やクルマといった、大きな金額が動くものも、オンラインで購入されているからだ。こうした買い物をする時にはローンを組むが、その際には社会保障番号(日本のマイナンバーのようなもの)を渡し、秘密の質問として母親やペットの名前を登録する必要がある。

もしこのサイトの安全性が低く、社会保障番号が流出してしまった場合、その方の母親の名前を見つけることは簡単だし、そういう情報の整理が簡単にできてしまう時代になっている。

自分になりすました誰かが、住宅ローンを契約したとわかれば、犯人や銀行に訴訟を起こすことができる。しかし、そのためには何カ月もかかるし、弁護士に大金を払わなければならない。

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