ベアリングの日本精工がなぜ「おもちゃに本気」? ベイブレードへの提供で得た「お金と違う価値」

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トップレベルの大会で使用されるヨーヨーは、1分間に1万回ほど回転。あらゆる角度から負荷がかかるため、生半可なベアリングではすぐに壊れてしまう。試行錯誤しながら開発を進め、10種類以上を作った。

そのうちの一つを搭載したヨーヨーが2010年8月、「スリーパー」という空転時間の長さを競う競技で、当時の世界新記録となる21分21秒25を叩きだした。2013年には、1個約2000円の価格でヨーヨー専用の高性能ベアリングを商品化。愛好家の間で評判となり、これまでに計約7万5000個を販売している。

「おもちゃ熱」が盛り上がったNSKマイクロは、2017年から精密技術を駆使してオリジナル玩具の開発にも着手。コマやジャイロスコープ、振り子などをこれまでに発売し、現在も新作を構想中だ。

いずれもハイエンドのベアリングを惜しみなく使用しているため、よく回るものの価格は数千円から2万円台と高額。販売数は決して多いわけではないが、いずれも黒字化を達成しているという。

1万7000円のハンドスピナーが即完売

その中でも最大のヒット作が、2017年に発売した「サターンスピナー」だ。

当時、大流行していたハンドスピナーの最上位モデルと言えるもので、価格は約1万7000円。NSKマイクロの技術者が一つ一つ手作りし、回転する時間は12分ほどと一般的な製品の数倍長い。約700個の限定生産は即完売。フリマサイトでは一時、7万~9万円のプレミア価格で取引された。

日本精工製のサターンスピナー
「サターンスピナー」が回転する様子。一般的なものは数百円から買えるハンドスピナーの中で、異例の高級品だった(記者撮影)

日本精工のE&Eマーケティング部でおもちゃ事業に関わる郡嶋聡太郎係長は、「ホビーに熱中する大人の中には、コスト度外視でよいものを求める人もいる」と分析。自身もラジコンで子供と遊んでいるといい、「おもちゃの性能を突きつめていくと、必ずベアリングに行き当たる。NSKの技術力を活かし、濃いファンに刺さるものを作りたい」と意気込む。

実際、一定の需要はあるようだ。ネットオークションなどでは、日本精工をはじめとする大手メーカー製をうたうベアリングが、ミニ四駆などのおもちゃ向けとして数十個単位で取引されている。マニアは精度が高いものを厳選したり改造したりするので、一度に大量の部品を買い込むという。

こうした流通品の多くは出所がハッキリしない。BtoBが本業の日本精工にとって、消費者への直接的な販路の確保が課題だ。一方で、たとえ本格的に販売を始めたとしても、同社の主力である自動車向けなどと比べれば、そんなに儲かる分野ではないだろう。

それでもホビー向けベアリングに懸ける思いを、石井社長はこう強調する。

「ベアリングを手に取り、親しんでもらうことには、お金では計り知れない価値を感じる。広報戦略と考えても効果は抜群だ。喜ばれるものを作るのはメーカーとしても楽しい。ユーザーの声を聞きながら、これからの展開を考えていきたい」

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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