ベアリングの日本精工がなぜ「おもちゃに本気」? ベイブレードへの提供で得た「お金と違う価値」

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大会は動画サイト「ニコニコ動画」を運営するドワンゴ主催の大型イベントの一環で、日本精工も協賛した。出場した人気ユーチューバーら10人に約30種類のベアリングを提供し、コーナリングで用いる「ガイドローラー」などに搭載された。

おもちゃ事業を手がける日本精工の子会社「NSKマイクロプレシジョン」の石井俊和社長は、現地を訪れて実況席からレースを見守った。

ユニークな発想の機体をNSK賞として表彰。副賞として製作用のベアリング1年分と「一緒にフェンスカー専用のベアリングを開発する権利」を贈呈した。受賞者を自社工場(神奈川県藤沢市)に招くなどして共同研究を進めており、年内の商品化を目指している。

NSKマイクロの本業は、ハードディスクドライブや歯科用の治療器具などに使用される小型ベアリングの製造だ。なぜホビー向けのイベントに参加したのか。その狙いを石井社長はこう語る。

「ものづくりは日本を支える大事な産業だ。人口が減っていく中で担い手を確保するために、裾野を広げていく必要がある。とくにベアリングは一見すると地味な世界。人を引きつけるおもちゃをフックにすれば、業界や製品をまったく知らない人にもアプローチできる」

レースの生放送中に実施した視聴者アンケートでは、「日本精工を知っていますか」との問いに「初めて知った」と答えた人が約3割。約9400億円の連結売上高(2023年3月期)を誇る企業規模を考えると寂しい数字だが、換言すれば、イベントへの協賛でそれだけの人に会社を認知してもらえたことになる。

NSKロゴ入りの改造ミニ四駆とフェンスカー
写真右の2つは協賛したレースに出場したフェンスカー。左の2つは会場に展示されたNSKロゴ入りの改造マシン(記者撮影)

ベイブレードを通じて届いた子供の声

日本精工には元々、玩具に関する大きな成功体験がある。旧タカラ(現タカラトミー)がベーゴマを現代風にアレンジしたおもちゃ「ベイブレード」で、初期モデルにベアリングを提供し、大ヒットした過去があるのだ。

その機種は「ウルボーグ」と名付けられ、2001年に発売。コマの軸部分に、ファンモーター冷却用の小型ベアリングを搭載し回転の摩擦を軽減することで、ほかのベイを凌駕する圧倒的な持久力を実現させた。

あまりの強さから子供を中心に爆発的な人気商品となり、全国で売り切れが続出。パッケージにはNSKの3文字が大きく印刷されており、知名度の上昇に大きく貢献した。

ベイブレードの箱に記載されたNSKロゴ
ウルボーグの箱に印字された「NSK」のロゴ(記者撮影)

事業所に「ベアリングをなくしたから売ってほしい」と小学生から電話がかかってくることもあった。「そんな声を子供にかけてもらうのは、普段ではありえないこと」(石井社長)。従業員のモチベーションアップにもつながったという。

その後は計4機種のベイブレードにベアリングを提供し、再びおもちゃに目を向けたのは2008年。NSKマイクロが出展した展示会で、「ヨーヨー向けの高性能なベアリングが欲しい」と、競技者から相談されたことがきっかけだった。

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