金融庁から見た「生命保険・損害保険」業界の姿 伊藤豊監督局長が語る業界の「課題と期待」

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損害保険については、やはり大きなテーマは自然災害の激甚化だ。世界的な自然災害が、再保険料の上昇という形で大きく影響を及ぼしている。

各社とも支払いに備えて準備金をどこまで積むのか、もしくは再保険にどれだけ移転するのかということをかなり工夫している状況ではある。ただ収益の変動が大きく、毎年大きな賭けをしているような印象が拭えない。ここは持続可能なあり方についてもっと考え、経営としてさらに工夫してもらう必要がある。

金融庁の伊藤豊監督局長は、東京証券取引所の経営企画部企画統括役も歴任した(撮影:尾形文繁)

自動車保険は、中長期的にその構造が大きく変わっていく分野だ。自動運転になれば、運転者に起因した事故ではなくて、システム上に起因した事故や損害になり、それをどう担保するかというまったく別の保険商品になる。車を所有すること自体も大きく変わってくる話だ。収益構造が自動車保険の一本足打法で本当によいのかという点については、各社とも強く認識していると思う。

長期的な戦略が不可欠であるし、どの企業・団体と組んで研究し戦略を練るかというのも重要だ。金融庁としても、金融機関の収益構造の転換になるので、しっかりと研究をしていかなければいけない分野だ。

ビッグモーター問題は検査の途中

──損害保険は、インフレなどに伴って保険料の値上げが一段と進む見通しです。それによってプロテクションギャップ(損害額と補償額の差)が広がる懸念が出ていますが、監督当局としてはどう捉えていますか。

プロテクションギャップについては、火災、水災にとどまらず、例えばサイバーアタックに対する保険をどうするのかなど、さまざまなテーマがある。

システムダウンした際の保険の場合、デジタルでさまざまにシステムがコントロールされていくと、事故のときに被害の規模がかなり大きくなる傾向がある。万一、民間保険ではカバーしきれない事態になったときに、公的な支援の部分をどうすればいいのかという議論もある。

今年11月のIAIS(保険監督者国際機構)の東京総会でも主要なテーマであり、この部分は今後かなり深く議論していく必要がある。官民や地域を越えて、世界全体でソリューションを考えていかないといけない。

──大手損害保険会社のカルテルや保険金不正請求の黙認といった問題について、金融庁としてはどう対処していきますか。代理店の事業構造を見直すべき、という声も出ていますが。

ビッグモーターをめぐる問題と保険料の価格調整の問題と2つあるが、いずれも今、報告徴求の途中だったり、検査の途中だったりという状況だ。まずは個別の事案についての事実関係の把握と、真因分析を進める。

現在は契約者などから、業界に対する信頼を失ってしまっているところがあるので、これをどうやって回復していくか。各損害保険会社としても真因分析を進めて、再発防止に向けた取り組みを早期に進めてもらいたい。

規制の見直しについては、先走って議論するつもりはない。今の代理店の仕組みは、これまでのニーズを満たすために出来上がったものでもある。一律に規制したことで非効率になったり、契約者の利便性を損なったりしては意味がないので、われわれとしても見極めながら対応していく必要がある。

東洋経済編集部
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