あえて「嫌われ者」の新自由主義を擁護するワケ 「増税メガネ」の新しい資本主義は完全に的外れ

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さて、本家の定義を知らずに新自由主義批判をしている人々は、新自由主義を一体どのようなものだと考えているのだろうか。

ひとこと、感想を付け加えよう。このフリードマンの論文が書かれたのが1951年であることを思うと、経済政策の議論が何と進歩していないことかと驚く。正直なところ、がっかりする。

日本は新自由主義ではない

もう1つの問題は、今の日本は新自由主義の影響の下にあるのか、という現状認識の問題だ。

フリードマンの定義に照らすと、新規参入は多くの分野で不自由だし(例えばライドシェアが自由にできない)、ベーシックインカムは不在で補助金は多いし社会保障は非効率的だし、日本は新自由主義の影響下になどない。

また、別の機会に書いたので手短に説明するが、日本の経済は上下が分離した二層構造になっている。

経済力と権力に乏しい下半分の世界は、カール・マルクスが想定した条件よりも悪く(労働力の再生産コストを大幅に下回る条件だ)労働者をこき使う「ブラック資本主義」である。一方、恵まれた大企業の会社員以上の経済力を持つ上半分の世界は、新自由主義はおろか資本主義さえ十分に始まっておらずメンバーシップが固定的な「日本的縁故主義」の世界である。

正社員をクビにできない仕組みは、労働力が十分商品化していないのだから、資本主義ではない。縁故主義のメンバーシップは、「侍の子でなければ、侍にはなれない」というほどには固定的ではなく、例えば「陸の王者」を自称するくらいの大学に入ると末席に加わる可能性を持てる程度には流動的だが、教育を通じて階級の固定化が進行しつつあることはよく知られている通りだ。

最近は、「増税メガネ」というあだ名を気にしているらしいが、岸田文雄首相が、新自由主義の弊害を正すとの触れ込みで掲げた「新しい資本主義」がいかにポイントを外した問題設定だったかがわかる(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

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