富士山「登山鉄道」、山梨県がこだわる真の理由 富士吉田市は「電気バスで十分」と反対姿勢

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登山鉄道の車両には一般的な鉄道車両ではなく、小型かつ低騒音・低振動でバリアフリー性に優れるLRV(軽量軌道車両)タイプの採用を想定している。車両基地などの施設は県有地を活用するため用地取得費はかからないが、全体の整備費用として1400億円が見込まれている。

スバルラインには急カーブが複数箇所存在し、その最小曲線半径は27.5m。車両がカーブを曲がれるか気になったが、長崎知事は「技術的に解決できるという専門家の意見をいただいている」と話す。有識者らからなる富士山登山鉄道検討会が2021年2月にまとめた報告書によれば、長さ10mの車体を3つつなげた長さ30mの車両を開発し、これを2連結して走行するとしている。10m単位でくねくねと曲がるのであれば、確かに対応できそうだ。ただ、道路の拡幅をまったく行わないかというと、長崎知事は「道路を10cmも広げないということはない」とも話しており、急カーブ区間のすれ違い対策などで多少の拡幅工事が必要になるかもしれない。

富士登山鉄道 イメージ
富士山登山鉄道構想のイメージ。富士スバルライン上に軌道を敷き小型の車両を走らせる(画像:山梨県)
富士スバルライン 急カーブ
富士スバルラインには急カーブが複数存在する(記者撮影)

「高めの運賃」で入山者数をコントロール

最急勾配は8.8%。このレベルの勾配をLRVが20km以上連続で走行した事例は海外でも確認できていないとされ、急勾配で安全に停止できるブレーキ性能も含め、あらためて検証を行うという。こうした構想策定段階における技術面でのコンサルはパシフィックコンサルタンツが実施しており、今後の技術的コンサルは日本工営に委託する予定。また、日本工営に対して軌道や電気など専門家から助言・指導を行う事業化検討委員会の設置を予定している。

上りの最高速度は時速40kmで所要時間約52分、下りの最高速度は時速25kmで所要時間約74分。絶景を眺めながらの鉄道旅となるが、運賃はどうなるのか。検討会の報告書では運賃水準について立山黒部アルペンルートや海外の登山鉄道を参考に往復1万~2万円としている。

高額にも感じられるが、長崎知事は、「ディズニーリゾートのチケットは1万円を超えるが、かえって待ち時間が減って満足度が高まったという声もある」として、富士山登山鉄道にはそれだけの付加価値があると反論する。運賃を高めに設定することで、5合目を訪れる客の数を減らしたいという考えが背景にある。

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