富士山「登山鉄道」、山梨県がこだわる真の理由 富士吉田市は「電気バスで十分」と反対姿勢

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スバルライン5合目の所在地である富士吉田市の堀内茂市長は「電気バスで十分」と公言する。その理由は鉄道整備による環境破壊の懸念によるものだが、電気バスではほかの車両の通行をコントロールできないという県の主張をどう思うか。

富士スバルライン バス
観光バスが行き交う富士スバルライン(記者撮影)

市の渡辺一史企画部長は「長野県の上高地ではマイカー規制と観光バス規制を同時に行っている」と話す。「長野県ができることをなぜ隣の山梨県ができないのか」というわけだ。

県の和泉次長に確認したところ、スバルラインの現状は激しい渋滞が発生した場合などに適用される道路交通法の交通規制基準に該当していないため、観光バスを規制できないが、上高地の例は今後参考事例として研究したいとのことだった。

「ライフラインの整備」も狙い

県はなぜそこまで登山鉄道にこだわるのか。そこには別の理由があった。それはスカイラインの5合目には電気も上下水道も引かれていないということだ。来訪者の増加に伴いレストランや宿泊施設が使用する水や燃料の運搬量が増え、自家発電量も増加、加えてトイレの処理能力が低下するなどの環境負荷が増加している。

こうした問題を解決するため、県は登山鉄道の整備と一体的に電気および上下水道等のライフラインを整備したいと考えているのだ。道路にレール溝を刻んで成形したコンクリートブロックを埋設する工事を行う際に上下水道や電力ケーブルの管路も併設する。

5合目のライフライン整備は富士吉田市にとってもメリットのある話だ。この点について市の渡辺部長に問うと、「その問題はわれわれも重要と認識している」としつつも、「登山鉄道とライフラインの問題は切り離して考えるべき」と述べる。渡辺部長によれば上下水道や電力ケーブルの管路を埋めるなら別ルートの「滝沢林道」を活用するほうがコスト的にもずっと安上がりだという。また、渡辺部長は、富士山の5合目付近は雪崩の発生しやすい場所であり、2021年3月にも雪崩でスバルラインが被害を受けたとして、道路に埋設したケーブルが損傷するリスクについても懸念していた。

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