名作「ハイジ」が激変、著作権切れ作品のその後 権利元は誰なのか、スイス映画の現状も聞く

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――この作品の資金調達はクラウドファンディングを通じて行われ、19カ国538人の賛同者により、200万スイスフラン(約2億9000万円)を集めたそうですが。

そうなんです。最初からクラウドファンディングをやろうと決めていました。こうした映画がすべて成功するわけではないんですが、ハイジは知名度があるので、この作品なら大丈夫だろうと。まずはポスターを作って、SNSのリアクションを見たら、数千という人がすぐにフォローしてくれた。

これはクラウドファンディングに向いているなと思い、すぐにティザー(特報映像)を作りました。それである程度の資金は集まったんですけど、もちろんそれでは不十分だったので、クラウド投資という、本作の売り上げから皆に配当金を分配する、というシステムを使って資金を集めました。それで最終的に200万スイスフランが集まったというわけです。

マッド・ハイジ 撮影
本作のメイキング風景。ハイジは、刑務所のような強制収容所に入れられ、囚われの身となる。©SWISSPLOITATION FILMS/MADHEIDI.COM

――配当金の支払いは順調にいきそうですか?

正直に言うと、まだ儲かっているとは言えない状態です。今のところは皆さんの投資額の7〜8%といった所ですね。ただ可能性はまだあります。アメリカ、そして日本でも公開されますから。そこで利益を得ることができれば、このビジネスモデルは成功だと言えますし、次回作の製作費にもまわすことができます。

クラウドファンディングの労力は大変

――この作品は大手の映画スタジオが介入せず、完全インディペンデント体制で作られたわけですが、クラウドファンディングは表現の自由を担保するといえますか?

もちろん今回、クラウドファンディングがクリエイティブの面において、大いなる助けとなりました。だからといってすべての映画がこの恩恵にあずかれるわけではありません。

やっぱりこれはスイスでは初めてのタイプの映画であったということと、題材がハイジだったからということはあります。例えば僕たちもほかにいろいろな映画のアイディアがありますが、それだとこのビジネスモデルは無理だったなと思います。

あとはこのような映画、いわゆるB級映画の愛好家の方たちの熱量も違いますよね。このジャンルの映画が好きな人たちは、映画を自分で持っていたいという欲求のある人たちだと思うんです。ストリーミングで見るのではなくて、DVD、Blu-rayなど、物理的なパッケージで所持しておきたいという。

ただ、このクラウドファンディングというのは、キャンペーン展開に非常に時間がかかります。皆さんに何とか協力してほしいとお願いしてまわらなくてはならない。その労力たるや本当に大変で。そのすべてにかけた時間で、もう1本映画が撮れたのではないかと思うくらいに、大変な時間を浪費しました。けっしていいことばかりではないということはお伝えしておきたいですね(笑)。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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