保険のプロは、最後まで保険には入りません 保険の入り方は企業に学べ!

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企業のリスク管理というのでは自分たちとは関係ない、と皆さんは思われるかもしれません。では身近な私たちの医療リスクにこの対処法を当てはめて考えたらどうなるでしょうか。ケガや病気で治療費がかさみ、ついに貯金が底をついて治療を受けられなくなるリスクです。

絶対にケガをしない、絶対に病気にならないようにすることは不可能です。ケガや病気から完全に逃れる方法はありません(リスクの回避)。せめてできることは、ケガしないよう、危険なことを避けるように心がけること。そして病気にならないよう、常日頃から健康に気をつけ体調管理に努めることです(リスクの軽減)

しかし、日々そのように心がけて生活しても、ケガをしない保障はありません。思いがけず病気になる可能性は誰にでもあります。そこで次にできる対処法は、いざという場合に備え、必要な治療費を貯金しておくことになります(リスクの保有)

さて、いくら貯金しておく必要があるでしょうか。実は、3カ月の入院が必要な場合でも、42万円で十分です。なぜならば、日本ではすでに誰もが公的な健康保険制度に入っているからです。治療費はほとんど健康保険から支払われます。さらに、入院などで治療が長期間に及んだ場合でも、自己負担額は高くてもひと月14万円で頭打ちです(「高額療養費制度」)。だから3カ月の長期入院治療に備えて最大42万円(≒14万円×3カ月)の貯金があれば、ほとんど心配することはないのです(それでも心配な人は、6カ月の入院に備えて84万円を貯金すればよいでしょう)。

このように、医療リスクに対しては、最後の保険の利用も、すでに国の健康保険で対処済みなのです(リスクの転嫁)

もう一度、医療リスクへの対処方法をまとめてみます。

1.リスクの回避:絶対にケガしない、病気にならない方法はない

2.リスクの軽減:せめて危険なことは避けて、健康管理を心がける

3.リスクの保有:たとえば、3カ月の入院治療に備えて42万円の貯金を準備する

4.リスクの転嫁:すでに国の健康保険で対応済みである

 

これがリスクマネジメントの教える医療リスクへの対処法です。

経済合理的な保険の入り方とは?

保険は最後の手段ですが、その保険を国がすでに準備しているのですから、民間保険会社の医療保険の出番はどこにもありません。企業のリスク管理にならって経済合理的に考えると一般の医療保険に入るという対処法は出てこないのです(企業が利用するのは、賠償責任保険、火災保険、運送保険などの損害保険が中心です)。

もちろん、どのように保険に入るかは個人の自由です。人間にとり企業のように損得だけの判断で保険を考えることがすべてではありません。そもそも人間は非合理な生き物ですから、経済合理的に考え行動しても幸福になれるとはかぎりませんし、それはそれで構いません。しかしその場合、経済的に損をしていることだけは確かなのです。

なお、医療保険については、次回(5月13日)「日本の医療保険は看板に偽りあり!」でさらに詳しく考える予定です。
 

橋爪 健人 保険を知り尽くした男

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はしづめたけと / Taketo Hashizume

1974年東北大学卒、1984年米国デューク大学修士。日本生命保険に入社後、ホールセール企画部門、米国留学、法人営業部門を経て米国日本生命副社長。帰国後、損保会社出向、ジャパン・アフィニティ(保険ブローカー会社)代表取締役を経て2004年独立。企業向け保険ビジネスのコンサルタントとして活動。著書に『日本人が保険で大損する仕組み』(日本経済新聞出版社)

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