ハワイで開業、鉄道「スカイライン」には誰が乗る? 度重なる延期や建設費の高騰の末、ついに完成

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カヒキナCEOは「新型コロナウイルスの拡大でハワイの観光収入が落ち込んだことが影響した」と明かす。建設費は税収頼み。しかも完成後の当局による安全性の検査も新型コロナの影響で中断を余儀なくされた。今年の5月10日、「6月30日に開業する」とブランジャルディ市長がついに正式発表した。

最終目標はシビックセンターからさらに2駅先のアラモアナセンターまでの延伸だ。アラモアナセンターまで延伸すると日本人観光客にとってもメリットがある。ハワイ名物の交通渋滞に巻き込まれることなく、空港とアラモアナセンターの間を行き来できる。

しかし、事業費を抑えるためアラモアナセンターへの延伸は中断となった。着工・完成などのスケジュールについてカヒキナCEOは、「シビックセンターまで開業した後の計画である」というコメントにとどめ、明言していない。日本人観光客が空港―アラモアナセンターの間の移動を満喫するのはだいぶ先の話になる。

スカイラインには、アラモアナセンターからさらに東側のハワイ大学マノア校まで延伸する構想もある。しかし、カヒキナCEOは「現在のところ計画はない」と、半ば立ち消えの状態だ。

観光目的の利用は可能か?

開業初日、運賃が無料ということもあって列車内は多くの乗客で賑わった。この状況がいつまで続くのだろうか。

前述のように現在の一部開業では普段使いの需要は限定的だ。シティセンターまで開業すれば1日8万5000人の乗車が見込めるが、これに対してブランジャルディ市長は、「第1フェーズは1日5000~1万人程度。第2フェーズは1日2万5000人程度」との予測を示す。

利用者を増やすためには、観光目的の利用推進が欠かせない。1番列車の乗客の中には、「パーティートレインだ」と表現する人もいた。車窓を流れるバラエティに富む景色を楽しめるからだという。そこで、関係者の間にはスカイラインを観光資源として活用するというアイデアも出ている。日本からホノルルに到着する航空便は朝に到着することが多いのでホテルにチェックインするまで時間が空く。その時間を利用してスカイラインに乗ってもらおうというものだ。

確かに車窓からはダイヤモンドヘッドのほか、アリゾナ記念館も見える。何より、ハワイの太陽の下、広い大地の合間を縫って列車が疾走する魅力は日本では決して味わえない。とはいえ、このアイデアも空港まで延伸しないことには成立は難しい。

開業2日目の7月1日の午後にもスカイラインに乗ってみた。さすがに初日のような混雑は見られなかったが、多くの人が乗っていて、車窓の風景をスマホで撮影していた。こうした写真や動画がSNSで拡散されれば、一度は鉄道に乗ってみようと考える人は増えていくに違いない。

しかし無料期間が終われば、賑わいは落ち着くだろう。日常的に使う目的がない人が、一度乗った後にまた乗るかどうかも疑問だ。

少しでも利用者を増やすため、さまざまな施策を打つ必要がある。延伸工事も粛々と続けていかなくてはいけない。アラモアナセンターへの延伸計画も固めたい。課題は山積している。

ただ、列車に乗った誰もが笑顔だったように、今だけは、鉄道の開業を祝いたい。これから多くの困難が待ち受けるが、乗客の笑顔の記憶があれば、きっと乗り切れるだろう。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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