官邸ドローン、"オモチャ"相手に騒ぎすぎ むやみに規制を強化する必要はない

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毎年、隔年交替で、フランスのパリと、イギリスのファンボローで、世界最大の航空宇宙と兵器の産業見本市が開催される。私は1990年から四半世紀欠かさず取材しているが、ここ10年、ドローンの出展が増えた(会場では無人航空機という意味で、「UAV」として紹介されることが多い)。

この見本市は、軍隊を筆頭に、法執行機関向けの商品が紹介されるわけで、当然それらは、「兵器級ドローン」ということになる。実は今回の事件で使用された、リフト用のプロペラが4基あるタイプのクアッド・コプターの陳列はほとんどない。それはなぜか。

兵器級として見た時に、いわゆるクアッド・コプターは必ずしも有利ではないからだ。あのようなドローンが活躍するのは、人質立てこもりのような事件での警察の状況偵察程度であり、軍隊が必要とする、長時間の撮影には向かない。ものは運べないし、スピードが出ないから、撃墜も容易だし、何より航続距離が短すぎる。

問題は、クアッド・コプターの性能である。4Kカメラを吊り下げ、海岸線の夕焼けを撮影するには向いている。あるいはマラソン中継の要所要所で、上空からの俯瞰映像を撮ったら迫力があるだろう。建設現場での利用にも効果がある。

しかし、あの手のドローンは、何かの武器、たとえば今回使われた放射性汚染物質を詰めた「ダーティ・ボム」や爆弾、あるいは化学兵器を搭載して何処かに突っ込むには全く不向きである。まずペイロード(搭載重量)が決定的に足りない。現状では、市販されているホビー・クラスのドローンのペイロードは、ほんの数百グラムに過ぎない。

軍隊で使われる対人手榴弾の重量は、だいたい400グラム前後だが、それを1~2個運ぶのが精一杯であろう。しかし、手榴弾でテロを企てるとしたら、そんな面倒で不確かな手段に訴えるより、テロリストは自分の手で確実に投げつけることを選ぶだろう。

ドローンを利用した汚染攻撃は可能か

今回の事件の斬新さは、生命に危険の無いレベルとはいえ、世界で初めて、ドローンを利用したダーティ・ボム攻撃が実行された点にあるが、ただちに人体に害を及ぼすレベルの汚染物質を手に入れるのは容易ではないし、それを上空からばらまいた所ですぐ拡散される。

日本人は、地下鉄サリン事件で、化学兵器の恐ろしさを嫌というほど知ることになったが、地下鉄サリン事件の場合は、それが地下鉄車両、及び地下鉄駅構内という密閉された空間でばらまかれたから犠牲者を増やすことになった。化学兵器は、地上ではあっという間に拡散する。これを地上でやって殺傷効果を得るとなれば、求められる量は、たかだかドローンで運べるものではない。何キロという重量になる。生物兵器にしても、電車の中でこっそり撒いた方が効果的であることは、言うまでも無い。

つまり、デモンストレーションという意味合いを除いては、現状、市販されているドローンを、テロ行為に使っても効果はほとんど見込めない。過激派が使う従来型の迫撃弾の方が遙かに恐ろしい。何しろあちらは爆発せずとも、その運動エネルギーだけで人を殺傷できる。

その程度のドローンの使用を規制することに、さほどの意味はないが、それでも規制を目指すのだろう。しかし、果たして規制できるのだろうか。

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