広島サミットの影で起きた中東「晴天の霹靂」 イランとサウジが和解、アサド大統領を歓迎

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2019年、サウジアラビア東部の石油施設が攻撃を受け、サウジアラビアの石油生産能力は一時的に半減するほどの被害を被った。イランのミサイル攻撃ともフーシー派の攻撃ともいわれたが、イランがかかわっていることは明らかだった。

さらにイエメン内戦では、フーシー派がサウジアラビア国内の都市や施設、サウジアラビア沖に停泊中のタンカーなどへの攻撃を繰り返した。イエメン内戦への介入に対する報復だが、これもイランが裏で関与していることは明らかだった。

ここでサウジアラビアにとって予想外だったのは、軍事面で頼りにしていたアメリカがイランに対する報復攻撃をするどころか、何の対応も見せなかったことだ。

アメリカは当てにならない

シリア内戦でも同じようなことが起きた。

2013年、シリア軍が反体制派攻撃に化学兵器を使った。ところが化学兵器使用を「レッドライン」と主張していたアメリカのオバマ大統領は何の反応も見せず、「口だけの大統領」と批判された。その結果、一時は国際社会から孤立し苦境に陥っていたアサド政権が軍事的に優位に立ち、国土の大半を掌握した。

ムハンマド皇太子はサウジアラビアの「脱石油依存経済」を実現するため、2016年に「ビジョン2030」という大胆な改革と大規模計画を打ち出している。これを実現するためにはアメリカの軍事的サポートとともに、欧米諸国を始め海外からの企業進出や投資が不可欠だ。

ところが、アメリカの軍事力が当てにならないことがはっきりした。周辺国からミサイルが飛んでくるような不安定な国に、積極的に進出する企業や投資家はいない。イランとの対立はサウジアラビアの将来ビジョンも危ういものにしかねないのだ。

一方、イランの政権も盤石ではない。

2022年、ヒジャブを身に付けていない女性に対する厳しい取り締まりの結果、死者が出たことで政府批判が高まり、デモが相次いだ。ドーハでのサッカーワールドカップで、イラン代表選手がピッチ上で政府批判の姿勢を取り、スタンドでは応戦にきたイラン人が政府批判の横断幕を掲げるなどしたため、国際的な問題にもなった。

サウジアラビアとイランの間で水面下で関係修復の動きが出るのは当然のことだろう。そこに仲介役として中国が登場し、今年3月の国交正常化合意となった。

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