広島サミットの影で起きた中東「晴天の霹靂」 イランとサウジが和解、アサド大統領を歓迎

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中東は一般に、東はアフガニスタンから、アラビア半島、イスラエル、エジプト、スーダンなどを経て、西はマグレブ諸国までの西アジア・北アフリカ一帯を指す。民族的にはペルシア人が半数を占めるイランなど一部の国を除けば、アラブ人中心の国が大半だ。宗教的にはユダヤ教中心のイスラエルなどもあるが、多くはイスラム教の国だ。

一見、共通項が多いように見えるが、イスラム教の宗派対立に加えて各国の利害などが複雑に絡みあい、主要国の盛衰が激しく、域内、域外を含めて国家関係が頻繁に変化する。

この中東でいま起きていることは、歴史的にみても激変そのものだ。

イランとサウジ、長年の覇権争いに終止符

まずシリアだが、2011年に起きた中東の民主化運動「アラブの春」の影響で、アサド大統領の独裁政権を批判する反政府勢力が立ち上がり、政府軍との間で内戦状態となった。アサド大統領は当初から、徹底した強硬路線を打ち出し、反政府勢力の平和的デモでさえ容赦ない弾圧を繰り返した。

その結果、死者は50万人を超えるといわれているほか、人口2100万人のうち国外への難民が600万人以上、国内の避難民も600万人以上にのぼる。シリアは「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれるような状況に陥っている。人権侵害のあまりのひどさを前に、アラブ連盟はシリアの参加資格を停止し経済制裁に踏み切っていた。

次にイランとサウジアラビアだが、両国は長年、この地域の覇権争いを続けていた。民族が異なるうえ、共にイスラム教徒が多数を占める国だが、イランはシーア派、サウジアラビアはスンニ派が主流で、宗派的には対立関係にある。

また、サウジアラビアが親米国家として知られる一方で、イランは核開発疑惑などでアメリカと激しく対立しロシアに近い国だ。サウジアラビアが国内で活動していたシーア派の聖職者を処刑したことをきっかけに2016年、両国は国交断絶し対立が激化していた。

湾岸諸国の盟主を自任するサウジアラビアの30代の実力者、ムハンマド皇太子はイランに対し強い姿勢で臨んだ。隣国のイエメンの内戦ではイランがフーシー派を支援するのに対し、サウジアラビアは暫定政府側に加担し、内戦は事実上、サウジアラビアとイランの代理戦争となった。

またシリア内戦でもサウジアラビアは、アメリカなど西側諸国とともに反政府勢力を支援し、イランはロシアやイラクなどとともにアサド政権を支えた。

ことごとく対立したイランとサウジアラビアだが、イランのほうがどうも一枚上手のようだった。

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