電力会社で不正が続発、「価格カルテル」の罪深さ 公取委が1000億円超の課徴金納付を命令した

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具体的には、契約の獲得が見込めない高値の料金水準をあえて顧客に提示することで販売競争を回避していたと公取委は指摘している。官公庁入札では、提示する料金の水準を関電が九電に伝え、その情報を基に九電が電気料金を引き上げるといった違法行為があったという。

公正取引委員会が公表した資料の一部。大手電力会社の悪質性を詳しく示したイラストがある(編集部撮影)

公取委の排除措置命令を受けて、中国電では瀧本夏彦社長および清水希茂会長が責任を取って辞任すると表明。ただ、全面的に認めたわけではない。中国電は「独禁法抵触を疑われてもやむをえない面があった」とする一方、「事実認定と法解釈に関して公取委との間で一部見解に相違がある」として、「取り消し訴訟の検討も視野に入れる」としている。

中部電は関電と役員同士が面談をしていた事実を認めたものの、「カルテルに関しての合意はなかった」と主張。訴訟を通じて徹底抗戦する構えだ。九電の池辺和弘社長は「カルテルの有無はこれから精査する。私自身はまったく知らなかった」としたうえで、中国電と同様に取り消し訴訟の検討をするという。

電力会社がはまり込んだ底なし沼

関電では2018年秋に社内会議が開催され、岩根茂樹社長(当時)や、当時は、経営企画担当でその後に社長に就任した森本孝副社長(現在は特別顧問)、営業担当の彌園豊一副社長(当時)が出席。他社エリアでの営業活動を縮小する方針を決定したうえで各社に伝えることを決めたと認めている。

次々と不正が発覚している電力業界だが、法に触れかねない別の問題も持ち上がっている。公取委は経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会(電取委)に対してカルテル調査を通じて別の新たな不正が見つかったとして情報提供をした。

公取委によれば、大手電力は自社の販売部門や販売子会社に、新電力会社に対してよりも安い価格で電力を販売していたほか、卸電力市場への電力の供給量を絞り込むことで価格を引き上げ、外部からの調達に依存する新電力の競争力低下を企てていた者がいたという。前者の安値販売は独禁法で禁止されている「差別対価」に該当する可能性が高い。今後、電取委の調査を通じ、大手電力各社のさまざまな不正行為が明らかにされる可能性がある。

カルテルについては今後、取り消し訴訟を提起しても勝訴できる保証はない。むしろ、法廷で公取委からカルテルに関する具体的な証拠を突き付けられ、厳しい立場に追い込まれる可能性が高い。敗訴して課徴金が課された場合、社会の批判はさらに高まり、経営者は株主代表訴訟を起こされる。大手電力各社は文字どおり、底なし沼にはまり込んだ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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