日本企業は、なぜ中国で「踊り場」にあるのか 実は、今こそが再成長のチャンスだ

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「你好,请多关照 我是沢木 来自日本(こんにちは、日本から来ました沢木です。よろしくお願いします)」

飛行機の中で必死に暗記したフレーズだ。一夜漬けに過ぎないが、出向者然とふるまうのではなく、現地に溶け込もうとする姿勢を示すことが重要だと、過去の海外経験で身に染みていた。

午後から、早速、経営企画部の高級経理(シニアマネジャー)である黄と、現在の課題と取り組みについてヒアリングをすることにした。5年前に採用した、日本語検定1級を持つ人材で、総経理(日本でいう社長職)からは片腕として使ってくれと言われている。

「沢木さん、ようこそいらっしゃいました。」ニコニコしながら黄は言った。

「確かにここ最近売り上げは横ばいですが、その理由は主に市場自体が伸び悩んでいるからです。現に競合も同じような伸び率でマイナス成長のこところも多い。課題は特にありませんね。画期的な新商品が出れば問題ありませんよ、ははは……」

沢木は聞きながら、この男は片腕としては使えない、と思った。「課題がない」というのが課題である。保身から出たセリフかもしれないが、つねに事業環境が変化している以上、どんな企業であろうが課題がない状況はありえない。また百歩譲って現状すぐに改善すべき課題はなくとも、未来のあるべき姿に照らした際の「ギャップ=課題」は必ずあるはずだ。少なくとも経営企画のスタッフであれば、成長につながる顕在・潜在課題を10個はたちどころに上げて見せないといけない。

そこで、沢木は経営企画部員全員に、本社社長のコラムを読んでレポートを書かせることにした。自社のDNAの理解度、メッセージのオリジナリティ、論旨展開の確かさをチェックすることが目的である。

3日後の夜、あがってきたレポートに目を通していると、「今日の100円は明日の1万円」と出しされたレポートが目に留まった。論旨もしっかりしていて、思わずひざを打つようなオリジナリティもある。会社の理念と成長の方向性を結びつけて論じている点も、心を動かされるものがあった。名前を見ると、「張岳良」とある。確か、入社3年目の主管である。日本の大学を卒業後、上海で事業を立ち上げるも会社が解散、もう一度事業会社でビジネスを学び直そうと、中途採用に応募してきたという話だった。

翌日、会議室で話を聞いた。入社当初は営業企画部配属で、営業改革に取り組むも、不正の証拠を発見して本部長に伝えたところ、握りつぶされて部員からも総スカンとなり、企画部に飛ばされてきたという話を実に流暢な日本語で話した。いまは部内で細々と物流の3PL管理の支援をしている、ということだった。

そのような状況を見て見ないふりをする、日本人を含めた会社の上層部に対する不信感やあきらめの気持ちは相当強そうだった。無理もない、と沢木は思った。

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