"お茶くみ"残る地方都市「シングルマザー」の苦悩 元夫からの養育費は支払われず、生活は困窮

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「子どもに無関心で、養育費も払わない父親は意外と多いです。また、養育費は払わないのに、子どもに会いたがる父親も少なくないんです。長くこの仕事をしていますが、未だに驚くことばかりです」と山本さん。

養育費不払いの原因のひとつは、日本の離婚制度にあるという。日本では協議のみで離婚する夫婦が多く、養育費や面会交流について調停などの裁判手続や公正証書などの公的な取り決めがないことは珍しくない。

外国では、離婚時に厳密に公的な手続きが行われるほか、養育費を支払わないとペナルティが課せられる国も多い。運転免許証やパスポートが停止されたり、国によっては禁錮刑になったりする。ところが、日本では養育費を支払わなくても何の罰則もない。

ひとり親家庭の「貧困の連鎖」

2019年の厚生労働省の調査(国民生活基礎調査)によると、日本の子どもは7人に1人が貧困状態にあるという。OECD(経済協力開発機構)加盟国38か国の中で10番目に貧困率が高い。では、ひとり親家庭の子どもは?といえば、なんと約2人に1人(48.1%)が貧困。これはOECD加盟国の中でも最悪のレベルとなっている。

山本さんたちが危惧するのは、貧困の連鎖だ。貧困家庭の子どもは、教育をはじめ、さまざまな体験機会に恵まれにくい。そのため、豊かな人生観や職業観が育まれなくなってしまうという。

「非正規で働くシングルマザーの子どもは、フリーターとなって母親と同じように非正規で働くケースが少なくありません。お母さん自身が正社員として就業した経験がないと、正規と非正規で働くことの社会保障制度の違いなどに疎いままです。子どもに適切な助言を与えることもできません」

「子どもの貧困」は、各家庭だけの問題ではない。こうした子どもは成人後も低所得な仕事しか得られない。その結果、税金を納められないうえ、いずれは生活保護の対象となるケースも多い。日本財団の試算(2015年)では、こうした「子どもの貧困」を放置することで、42兆9000億円の社会的損失になるという。

そこで、愛知県母子寡婦福祉連合会では、病院やテレビ局、幼稚園、食品会社などの協力により、看護師や保育士、アナウンサーやカメラマンやパン職人といった職業体験を実施。子どもたちに職業観を身につけさせることに尽力している。

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