"お茶くみ"残る地方都市「シングルマザー」の苦悩 元夫からの養育費は支払われず、生活は困窮

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「県内のある企業に中途採用された女性が、次々と辞めてしまったことがありました。よくよく聞いてみると、女性の仕事はお茶くみとコピー取りと雑用のみ。それだけでなく、男性の飲む湯呑みの種類やお茶の好み(苦さ、温度)、コピーの取り方など、一人一人に合わせたやり方を覚えないと叱られるそうで、耐えられなくなってしまうんです」

およそ、令和とは思えない話だが、県内には、このように女性に補助的な仕事しか与えない職場が根強く残っている。当然、女性の管理職も少ない。

山本さんの言葉を裏付けるのが、上智大の三浦まり教授らが発表したジェンダーギャップ指数。愛知県のジェンダーギャップ指数は、政治23位・行政30位・教育24位・経済37位。名古屋市という大都市を抱えながらも、軒並みジェンダーギャップが大きい結果となっている。

ジェンダーギャップが大きい社会では、女性の声が制度への意思決定に反映されにくくなる。また、男性と比べ教育や仕事の選択が制限されるという。愛知県では女性の大学進学率も23位と低い。給与や仕事内容にも男女格差が生まれるのは必然といえるだろう。

シングルマザーに追い打ちをかけたコロナ禍

中小零細企業では、妊娠・出産時に退職せざるをえない女性は多い。小人数の職場では、産休の間にほかの職員だけで、ひとり分の業務をカバーすることが難しい。出産後も仕事を続けられるのは、大企業勤務の人や公務員がほとんどだという。

こうした環境で、シングルマザーが正社員として働き続けることは厳しいのだろう。愛知県母子寡婦福祉連合会からの食料支援『スマイルBOX』を受けている547世帯へのアンケート(2022年9月実施)によると、母子世帯の就業率は9割近くと高いことがわかる。しかし、そのうち正社員は35%に過ぎず、残り65%はパートや派遣社員などの非正規となっている。

出産で退職しブランクがあっても、高卒以上の学歴でパソコンが使えれば、40代や50代でも再就職は可能だ。しかし、支援を求めているシングルマザーの中には、高校を出ていない人や、パソコンを使えない人が少なくない。そのため、たとえ非正規でも事務系の仕事に就くことはハードルが高く、調理、清掃、製造、介護などで働く人が多いのだという。

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