トレンドマイクロ、世界首位陥落で迎える正念場 サイバーセキュリティー業界で相次ぐ再編

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現在、各社が照準を合わせるのがEDRをより進化させたXDRの販売だ。XDRはエクステンディッド・ディテクション・アンド・レスポンス(拡張型の検知と対応)の略称で、従来のEDRでカバーするエンドポイントに加え、より広範なメール、サーバ、クラウドやネットワークなどからも情報を収集し、組織全体の環境にまたがって、侵入や攻撃がないか調査、対応を行う製品だ。

トレンドマイクロは2020年にXDRの「ビジョンワン」を発表した。「過去30年以上、一貫してセキュリティー製品を開発してきたという技術や経験の蓄積と一貫した方針のもとでプラットフォーム全体としての開発をできることが強みだ。この総合力をXDRで発揮していきたい」(トレンドマイクロの宮崎謙太郎氏)と意気込みを語る。

現在、ビジョンワンはヨーロッパや中東を皮切りに、日本やアメリカなど主要地域での販売を開始。EDRで他社に奪われたシェアを、XDRで巻き返すべく、テコ入れを急いでいる。

一方、クラウドストライクとサイバーリーズンは2021年にXDRを発表した。クラウドストライクは他社と積極的な提携を実施、サイバーリーズンはグーグルクラウドと連携することで、機能を充実化させる方針だ。またファンド傘下のトレリックスやマイクロソフトも注力するなど、最先端の主戦場はXDRに移りつつある。

アクティビストもトレンドマイクロに照準

トレンドマイクロは業界の古参企業だが、他社のような大型再編とは距離を置き、新興企業のように成長を優先して営業赤字に陥ることもなく、おおよそ1桁後半の売上高の成長を長年にわたって続けてきた。

こうした安定性は大きな強みだが、急成長を遂げるクラウドストライク(時価総額約4兆円)や、マイクロソフトのような巨大会社に比べて、成長力で見劣りするのも事実だ。

8月には著名なもの言う株主(アクティビスト)の、バリューアクトが8.73%の株式を取得したと発表し、「状況に応じて重要提案行為などを行う」とした。トレンドマイクロのネギCFOは「当社の取引先や競合など72社に取材し、割安だと判断したようだ」と分析する。

サイバー攻撃の手法はどんどん高度化し、防御手法を磨き続けられなければ淘汰される。トレンドマイクロは今後も競争力を保ち、成長を続けられるか。大きな正念場を迎えている。

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(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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