無駄な仕事に大義名分を掲げる日本企業の病理 フルタイムで働かせるための仕事が創出される

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フルタイムで働くことを前提に無駄な仕事が生み出される(写真:kouta/PIXTA)
忙しい毎日は、無駄な仕事ばかり与えられているからだとしたら……。AIや機械化のおかげで必要な仕事は減っているはずなのに、忙しいままだとしたら、何かがおかしいといえます。そのカラクリは何なのか、『その働き方、あと何年できますか?(木暮太一著)』より一部抜粋・編集のうえ考察します。

かつて、自分の仕事がなくなって困るのは「収入がなくなって、食べていかれなくなるから」でした。フルタイムの仕事がなく、一日のうち少しの時間しか働かないと、収入がそれだけ減ってしまいます。だから仕事が欲しかった。

でも、これからは違います。ぼくらが生きていくために必要な食糧や、生活に欠かせないものを作る作業は機械やAIが大部分を肩代わりし、人が生きていくうえでは、もはやそんなに仕事をする必要はなくなっています。

これからぼくらに仕事が必要な理由は、仕事をすることによってぼくらが「人間」として生きていかれるからです。人として尊厳を持って生きるために仕事が必要なのです。

暇な時間は苦痛となる

ケインズは「人は仕事をしていないと不幸になってしまう」という指摘をしていました。「100年後には経済的な問題は解決するだろう。でも仕事(やるべきこと)がなくなってしまうとみんな不幸になってしまう、これは大変なことだ」とケインズは1930年の論文に書いています。

仕事をしなくてよくなることがなぜ不幸なのか、疑問に感じる人も多いかもしれません。日本でも近年、「FIRE(経済的に自立して、若くして引退すること)」がバズワードになっていますし、できることなら早く仕事を辞めたいと願う人は年々増えていると感じています。しかし同時に、長年企業勤めをした人が、引退後に何もすることがなくなって体調を崩したり、メンタルを病んでしまったりしている実情も忘れてはいけません。

ケインズは、「人はみな長年にわたって、懸命に努力するようしつけられてきたのであり、楽しむようには育てられていない。とくに才能があるわけではない平凡な人間にとって、暇な時間をどう使うのかは恐ろしい問題である」(『ケインズ説得論集』山岡洋一・訳、日経ビジネス人文庫)と述べています。

表現の仕方はともかく、自分の自由時間を楽しむ力量がなければ、暇な時間は単なる苦痛になります。毎日やることがない、毎日だらだらするしかない、社会と切り離された感じがして、自分の存在意義を感じられない。そう思うようになっても不思議ではありません。

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