黒い噂に染められた笹川良一の実像とは?

巨大財団を率いる一族の神話

圧倒的な差別の中を生きた早世のハンセン病作家や部落解放の父など、社会的弱者を描いてきた作家が次に選んだのは、世界最大級の資金力を誇る財団トップだった。『宿命の子 笹川一族の神話』(小学館)を書いた髙山文彦氏に聞いた。

──日本財団の笹川陽平会長と最初に会った目的は、やはりハンセン病制圧活動に関してですか?

そうですね。世界中、アフリカの奥地まで足を運んで活動しておられることは知ってました。そこまで旅を続けるっていうのはそうそうできることじゃない。何かを自分に課して活動してる印象がありました。その情熱とはどういうものなのかと。

──妾(めかけ)の三男に生まれ認知もされず生活は貧窮。ようやく父・笹川良一と同居しても、徹底して下男扱い。小説を地で行く少年時代ですね。

陽平さんは「私なんかちっとも面白くないよ。女の話一つなし、バクチの仕事はしてるけど自分は全然しないし株券1枚持ってない。面白いとすれば、まあ妾の子だってことくらい」と。そこで、包み隠さず話してください、と言ったわけ。彼はそれに正面から応えたんですよ。

特異な親子関係が不可欠に

──陽平氏の内面を探っていくうちに、特異な親子関係が不可欠な要素になるわけですが、書くに当たって条件はなかったんですか?

高山文彦(たかやま・ふみひこ)●1958年宮崎県高千穂町生まれ。99年『火花 北条民雄の生涯』で第31回大宅壮一ノンフィクション賞と第22回講談社ノンフィクション賞を受賞。ほかの著書に『「少年A」14歳の肖像』『鬼降る森』『水平記 松本治一郎と部落解放運動の一〇〇年』『エレクトラ 中上健次の生涯』『父を葬る』など。

何一つなし。でも彼はたぶん、父から受け継いだハンセン病制圧活動に絞ってほしかったんじゃないかな。だけど僕は笹川良一の真実を知りたくなったし、全部書きたいと。

ボートレース創始者で財団創設者である良一という人は、ゴロツキ政商だA級戦犯容疑だ右翼のドンだ、右手でテラ銭稼いで左手で施す金銭欲名誉欲の塊だといった、黒い神話に染め上げられた人でした。

実際僕も“洗脳”されてた側で、最初は「広報係にはならんぞ」という意気込みでした。確かに彼の周りには有象無象、各界大物が群がったんです。ヤツはカネを持ってるぞと。でも彼が死んだとき、そのうわさは引っ繰り返された。遺産15億円とか報道されたけど、陽平さんに残されたのは80億円の借金だけだった。

──「戦後最大の被差別者は笹川良一」と陽平氏は表現しています。

良一はむしろ軍部支配政権に牙をむき、翼賛選挙を批判し、朝鮮人差別撤廃要求や言論統制反対、戦後はマッカーサーへ意見書を出す、衆議院議員総辞職を呼びかけるなど、まっとうな持論で活動した。旧戦犯とその家族・遺族を援助し、後にハンセン病患者の支援に力を注ぎました。

なのに、ここまでダークなイメージがしみ付いたのは、元軍人やジャーナリズム、知識人の人身御供にされたから。彼らの密告や証言はほとんどが根も葉もないデマ。戦時中は軍に協力してあおりまくり、戦後知らん顔を決め込むために、誰かを血祭りに上げる必要があったんでしょう。その生け贄が笹川良一だった。

──そんな父を「引き取られた当初から尊敬していた」と言い、晩節を絶対汚させない、と陽平氏は心に誓う。冷酷だった父への葛藤のようなものはいっさい描かれていません。

実際そういう葛藤はなかったんです。16歳で物心ついて初めて会ったとき、息子に対し、元気だったかも何も言わない。良一は巣鴨プリズン時代にボートレースの集金システムを考えて、カネは生涯慈善にささげると、そう決めたんでしょ。女にはめっぽう弱いし、バカなこともいろいろやるけど、虚心の人だった。奉仕をしていくために私心を捨てた。

陽平さんにとっては、父親という存在が父親じゃないんですね。人生の大きな師であって、自分が私有できる人ではない。でも父であることに違いはない。良一に最後まで傷をつけたくなかった。どうしてそんなふうに思えたのか。子供時代の苦労を、彼は苦労とも思ってないのよ。当たり前なことだと思ってる。

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