「戦勝5カ国の絶対権利」は永久不滅なのか 常任理事国の拒否権に制限が掛かる日

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しかし、すべてのP5が合意できる、拒否権を制限する提案が起草されるためには、3つの重要な要素が必要となる。

まず、その協定案は関連性のある事案を明白に定義し、確立されたR2P用語を基に構築されなくてはならない。「全住民が苦しんでいる犯罪、集団虐殺、人道に対するその他の犯罪、あるいは大規模な戦争犯罪の差し迫った危険性」といった定義づけが考えられるだろう。

次に、このような事案が実際に発生した際、協定案にはそれを判別するための仕組みが必要となる。これは迅速に行い、客観的評価を一定程度保証し、理想的には国際コミュニティの広範な部分にまたがる強力な関与を生み出す必要がある。

悲劇を繰り返さないために

これらのニーズを満たす1つの方法が、2段階の要件認定方式の配置である。1つ目の要件では、国連事務総長、ならびに大量虐殺の防止とR2Pに関する特別顧問室が認定書を安保理へ通達し、その事案が合意された定義を満たしていることを伝える。もう1つの要件は、一般に認められている各地理的区分からの少なくとも5つの加盟国を含む、最低50加盟国による拒否権制限の要求である。

3つ目の重要な要素は、P5のどのメンバーでも、「極めて重要な国益」がかかっている場合には、拒否権を発動できるという例外規定である。

中国とロシアは、それぞれ2007年と2008年、ミャンマーとジンバブエに対する安保理の決議案に拒否権を行使する際、「国益」を持ち出せただろうか。ロシアと、シリアのアサド政権は、政治的にも軍事的にもその関係が深まっているものの、国連の決議案がロシアの重要な国益を損なうなどと、本当に主張できるだろうか。そう考えれば、拒否権発動には相当の抑止が掛かる。

カンボジア、ルワンダ、スレブレニツァやシリアの悲劇を繰り返してはならない。そのために考案された行為を妨害する人々には、今まで以上の政治的損失を与えるのが、拒否権制限の意義である。フランスの提案は、国際的に人々の心に響いている。P5がそれを無視するには、相当な危険が伴うだろう。

週刊東洋経済2015年2月28日号

ギャレス・エヴァンス 元オーストラリア外相

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2009年から核不拡散・核軍縮に関する国際委員会の共同議長

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