「防衛力の抜本的強化」のための増税はありうるか 来年予算の概算要求で防衛省が異例の増額要望

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拙稿「日本の防衛費は『対GDP比2%』へ倍増できるのか」でも問うたように、防衛費を増やしても、その財源を国債で賄えば、技術進歩が速い防衛装備品が早期に陳腐化して使えなくなると、購入費に充てた借金だけが残る羽目になる。それでは、真にこの国を守ることにはならない。

2022年度当初予算での防衛関係費は、5兆4005億円だった。金額を示した防衛省の概算要求だけでも、これより約2000億円多いうえに、事項要求分もある。仮に、2023年度に6000億円増額して、防衛関係費が約6兆円となったとしよう。6000億円をすべて増税で賄うとしても、消費税率に換算すると約0.2%強の税率引き上げで賄える。

目下、消費者物価指数上昇率が対前年比で2%超上昇していて、物価高が大きな関心事となっているが、消費税率にして0.2%強とは、その度合いの10分の1にすぎない。

現状では消費税は防衛費の財源にしにくい

だからといって、防衛費の増額を消費税の増税で賄うという選択肢は、今のところほぼない。消費税収は、社会保障の安定財源確保のために用いられることとなっているからである。

1兆円を超える規模の税財源確保となると、国民の負担増への忌避感もあって、困難だろう。しかし、それを下回る数千億円規模の財源確保なら、防衛費の増額に対して好意的な国民が多いとの世論調査結果を踏まえれば、消費税以外の税目で増税することには、合意が得られるかもしれない。

政府与党での予算編成における慣行として、歳出増のための税財源の恒久的な確保(増税を含む)に貢献すると、その財源が今後安定的に当該歳出のために充てられる傾向がある。ここでいう「安定的」というのは、当該歳出が無慈悲に削減されることはない、という意である。ただでさえ、負担増に忌避感の強い国民に対して、負担増への合意形成に貢献したことへの果報というべきだろうか。

さらに、税財源の確保は、増税だけがすべてではない。税の自然増収の活用もありえよう。もちろん、これまでの予算編成において、当初予算段階から、税の自然増収を活用することは、断じてありえなかった。なぜなら、捕らぬ狸の皮算用になるからである。

税の自然増収とは、当初予算段階では想定していなかったような税収増が決算段階で生じることを指す。当初予算段階で想定していないような税収増がもし得られなかったら、決算段階で歳入不足に陥る。だから、自然増収を、当初予算段階から織り込むわけにはいかない。

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