人類史上、今はもっとも平和な時代である 人類は絶え間なく戦争をやってきた
テロ、紛争、無差別殺人。世界は悲劇的なニュースであふれている。人類は自らの手でその未来を閉ざしてしまうのではないか、と不安になる。ところが、著者スティーブン・ピンカーは大胆にもこう主張する。
“長い歳月のあいだに人間の暴力は減少し、今日、私たちは人類が地上に出現して以来、最も平和な時代に暮らしているかもしれない”
にわかに信じがたいこの説を検証し、読者に確信させるために、ピンカーは人類の暴力の歴史を大量の統計データとともに振り返る。
膨大な文献に基づく、深い考察
本書(『暴力の人類史』スティーブン・ピンカー〈著〉)が上下で1300ページ超という並外れたボリュームで膨大な文献を引用しているのは、並外れた説の主張にはそれに見合った証拠を提出する必要があるからだ。しかし、ピンカーが「統計のない物語が盲目であるとするならば、物語のない統計は空疎である」と語るように、本書はデータばかりが延々と続く退屈なものではない。持続的な暴力減少を示す圧倒的な事実の積み重ねとそのメカニズムに対する深い考察は、世界が野蛮化しているという肌感覚が誤りであることを思い知り、人類の未来に明るい光を感じさせてくれる。
時計の針を巻き戻し、過去の人類がどれほど野蛮だったかを垣間見よう。たとえば、中世ヨーロッパ。そこでの拷問は大衆娯楽であり、死刑囚が車裂きなどの刑で悲鳴をあげる姿に善良な市民が拍手喝采していた。これだけでも十分に異様だが、当時最も人気のスポーツは、両手を縛られた選手が猫を頭突きでどれだけ早く殺せるかを競うものだったというのだから、想像するだけでも気分が悪くなる。これは中世ヨーロッパが特別だったということではなく、世界の各地で、あらゆる時代で起こった暴力の一例に過ぎないのだということを、本書でこれでもかと紹介される「人類の野蛮の歴史」が教えてくれる。
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