「骨太方針」で財政健全化は骨抜きにされたのか 見逃されている税収の大幅増と巨額繰越の行方

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東洋経済オンラインの拙稿「2021年度予算、『短期国債が4割』の異常事態」でも触れたように、ただでさえ、わが国の国債発行は短期国債に依存しなければならず、借りてはまた借り換えるという「自転車操業状態」に陥っているのだから、これを機に短期国債の返済を進めることが望まれる。

その観点から、2021年度の決算で、歳出予算をいくら使い残すのかが注目点である。

もう1つの注目点は、税収である。コロナ禍でありながら、消費税率を10%に引き上げたこともあって、一般会計税収は過去最高を更新している。2020年度決算では、バブル景気末期の1990年度の税収60.1兆円を超えて、60.8兆円となり過去最高を記録した。さらに、2021年度の補正予算後の税収見込みは63.9兆円としており、過去最高を更新することが確実視されている。しかも、決算段階での税収は、この過去最高を想定している補正後予算の税収見込みよりもさらに増えるという予想が出ている。

2021年度の歳出予算は、補正後予算の税収見込みを前提に組まれているから、もし2021年度の決算段階での税収が63.9兆円を超えれば、それは歳入超過として歳計剰余金を増やす要因となる。

税収増によって剰余金が増えると、前述のように、借金をより多く返済できて、財政収支を改善させる。2021年度の税収が、どこまで大幅増となるかが注目される。

プライマリーバランス黒字化の可能性はむしろ高まっている

この税収の大幅増の、プライマリーバランスに与える影響は大きい。東洋経済オンラインの拙稿「岸田内閣は財政健全化目標を先送りするのか」で詳述したように、より低い経済成長率などより保守的な経済前提でみても、経済予測の発射台(予測を始める前の年)での税収が多ければ、2025年度の税収も多くなると見込まれる。そうなると、プライマリーバランスの黒字化も実現可能性が高まる。使い切れない歳出予算を、無理に無駄遣いせずに不用とすれば、それだけ財政収支は改善するから、なおさらである。

さらに「骨太方針2022」には、2023年度予算において、「骨太方針2021」にも基づいて経済・財政一体改革
を着実に推進する旨が記されている。これは「歳出の目安」という歳出増を抑える具体的な方針を踏襲することを意味する。だから、2023年度の予算編成での歳出抑制には、コミットしているといってよい。

そうみれば、今般の「骨太方針2022」で2025年度のプライマリーバランスの黒字化を明記しなかったのは、目標の旗を降ろしたわけではなく、その達成が視野に入っている実態を反映したものなのかもしれない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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