「反イスラム」が高まれば法規制の議論も 鹿島茂氏が読み解く仏紙襲撃事件(後編)
仏紙襲撃事件の背景と影響について鹿島茂氏に聞く、後編(前編は「仏紙襲撃事件は、普遍主義同士の強烈な衝突」)。
フランスで「表現の自由」を制限したゲソー法
――厳しい状況に置かれているイスラム系移民が多い中で、「シャルリ・エブド」の表現はえげつなく、「表現の自由」で押し通してよいのか、とも思います。また、執拗に何度も描いています。
何度も描いているのは、むしろ宗教などは尊重しないことで、「一にして不可分」な共和国が成立すると考えているからでしょう。
ただし、「表現の自由」ということで、何でも許される訳ではない。1990年に成立した「ゲソー法」(Loi Gayssot)では表現の自由に制限を加えている。共産党の大物議員のジャン・クロード・ゲソーさんという人が提案したものです。人道に対する罪の問題に対応したもの。ホロコーストがあったことの否認、およびホロコーストの肯定などの「反ユダヤ主義」、「人種主義」、「テロリズムの礼讃」の3つを厳禁としている。これに違反したら捕まる。実際に、今回の連続テロ事件に関連しては、ユダヤ系の商店を襲ったアメディ・クリバリ容疑者を擁護するコメントをした反ユダヤ主義のコメディアンのデュドネが身柄を拘束されている。
しかし、この3つに違反しなければ、何を書いてもよく、その自由度は非常に大きなものです。フランスではバルザックの時代から百家争鳴、多党分立でそれぞれに機関誌があって勝手なことを言っている。
自らもジャーナリズムの標的にされたバルザックが、『ジャーナリストの生理学』で、「ジャーナリズムの息の根を止めるのは不可能ではない。一民族を亡ぼす時と同様、自由を与えさえすればよい」と書いています。逆説的ですが、弾圧を加えたら、かえって反権力でまとまってしまうが、自由にすれば、大混乱するので王様は安泰ということ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら