「反イスラム」が高まれば法規制の議論も 鹿島茂氏が読み解く仏紙襲撃事件(後編)

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かしま・しげる●1949年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位修得満期退学。フランス文学者。明治大学教授。フランス文学の研究翻訳、19世紀のフランスの社会を中心に、多数の著作、エッセイの執筆のほか、稀覯本、古書の収集でも知られる。『馬車が買いたい!』で1991年度サントリー学芸賞、『子供より古書が大事と思いたい』で1996年講談社エッセイ賞、1999年『愛書狂』でゲスナー賞、1999年『職業別パリ風俗』で読売文学賞評論・伝記賞を受賞。(撮影:尾形文繁)

仏紙襲撃事件の背景と影響について鹿島茂氏に聞く、後編(前編は「仏紙襲撃事件は、普遍主義同士の強烈な衝突」)。

フランスで「表現の自由」を制限したゲソー法

――厳しい状況に置かれているイスラム系移民が多い中で、「シャルリ・エブド」の表現はえげつなく、「表現の自由」で押し通してよいのか、とも思います。また、執拗に何度も描いています。

何度も描いているのは、むしろ宗教などは尊重しないことで、「一にして不可分」な共和国が成立すると考えているからでしょう。

ただし、「表現の自由」ということで、何でも許される訳ではない。1990年に成立した「ゲソー法」(Loi Gayssot)では表現の自由に制限を加えている。共産党の大物議員のジャン・クロード・ゲソーさんという人が提案したものです。人道に対する罪の問題に対応したもの。ホロコーストがあったことの否認、およびホロコーストの肯定などの「反ユダヤ主義」、「人種主義」、「テロリズムの礼讃」の3つを厳禁としている。これに違反したら捕まる。実際に、今回の連続テロ事件に関連しては、ユダヤ系の商店を襲ったアメディ・クリバリ容疑者を擁護するコメントをした反ユダヤ主義のコメディアンのデュドネが身柄を拘束されている。

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自らもジャーナリズムの標的にされたバルザックによる痛烈な反撃

しかし、この3つに違反しなければ、何を書いてもよく、その自由度は非常に大きなものです。フランスではバルザックの時代から百家争鳴、多党分立でそれぞれに機関誌があって勝手なことを言っている。

自らもジャーナリズムの標的にされたバルザックが、『ジャーナリストの生理学』で、「ジャーナリズムの息の根を止めるのは不可能ではない。一民族を亡ぼす時と同様、自由を与えさえすればよい」と書いています。逆説的ですが、弾圧を加えたら、かえって反権力でまとまってしまうが、自由にすれば、大混乱するので王様は安泰ということ。

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