仏紙襲撃事件は、強烈な普遍主義同士の衝突 鹿島茂氏が読み解く仏紙襲撃事件(前編)

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かしま・しげる●1949年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位修得満期退学。フランス文学者。明治大学教授。フランス文学の研究翻訳、19世紀のフランスの社会を中心に、多数の著作、エッセイの執筆のほか、稀覯本、古書の収集でも知られる。『馬車が買いたい!』で1991年度サントリー学芸賞、『子供より古書が大事と思いたい』で1996年講談社エッセイ賞、1999年『愛書狂』でゲスナー賞、1999年『職業別パリ風俗』で読売文学賞評論・伝記賞を受賞。(撮影:尾形文繁)

1月7日、フランスの風刺新聞「シャルリ・エブド」がイスラムの預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことを理由にアルジェリア移民の2世の兄弟が編集部を襲撃。連続テロ事件に発展した。11日にはテロに抗議し、「表現の自由」を掲げるデモ行進にフランス全土で370万人が集結。EU(欧州連合)各国首脳らも参加した。13日にはフランスの国会で、議員達がフランス国家ラ・マルセイエーズを斉唱し、バルス首相が「テロリズム、イスラム過激派との戦争に入った」と宣言。シャルリエブド紙はその後、預言者ムハンマドの風刺画をまたも掲載。今度は、イスラム社会でこれに反発するデモや抗議集会が広がっている。

一連の事件の背景となるフランスの社会、思想と今後予想される事態について、フランス文学者の鹿島茂氏に話を聞いた。

フランス共和国の原理を理解する必要がある

――連続テロ事件は衝撃でした。一方、フランス以外の国のメディアからは、風刺画を掲載した新聞の表現も下品で執拗なもの、との指摘がありますし、フランスが国を挙げて、大規模かつ激しい反応を示したことも注目されています。

それに加えて、「シャルリ・エブド」に対する襲撃テロを起こしたのがアルジェリア系のイスラムの兄弟2人であったことも重要な点です。この3つの組み合わせを統一的に説明しないと理解できません。

まず、フランス共和国の第1原理とはフランス共和国は「一にして不可分な共和国である」というもの。そして、第2に「ライックな共和国である」ということ。「ライック」の訳語は難しく、日本では「政教分離」とか「非宗教的」、「世俗的」とか訳されるけれども、今は、そのまま「ライック」と使うことが多い。要は、「宗教そのほか個人の信条はプライベート(私的)空間においてはすべて認める。しかし、パブリック(公共)空間においては一切認めないという原理。

さらにこうした原理がどうしてできたかを考えるには、フランスの成り立ちを理解する必要がある。フランスは最初、中心部の小さなイル・ド・フランス(フランス国)からだんだんに広がって今の自然国境になった。その過程で、パリ盆地の王朝が周辺の小さな国々を統合していった。だから言語もブルトン語、オック語など数種類あり、それらを統一して生まれたのが、今のフランス語です。

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