『キャプテン』『プレイボール』にみる努力 「努力のジレンマ」リアリティと物語の狭間で

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3
拡大
縮小
 みなさんはこの1年、どんな努力をしましたか? マンガを題材に、「努力」の仕方を考察する短期連載を3日連続でお届けします。2日目は『キャプテン』と『プレイボール』です。

 

最高のガンバルマン!

『キャプテン』

前回では、『NARUTO -ナルト-』を取り上げ、『少年ジャンプ』における「努力」の系譜を考えてみた。努力は、友情や勝利と並んで少年マンガの主要なメッセージであったが、現在、努力を丁寧に描いた少年マンガは少なくなってきた。努力は、その成功が見込まれれば、単なる投資になり、見通しがない努力は、単純な熱い奴として周りから嗤われている。

今回は、努力マンガの原点を見つけるために、過去の名作を紹介したい。ちばあきお先生の『キャプテン』と『プレイボール』である。

まず『キャプテン』は、『少年ジャンプ』に連載されていた野球マンガである。主人公の谷口タカオくんは野球が大好きな中学生。彼は、野球の名門青葉学院から墨谷二中に転校してきたのだが、チームメイトたちは青葉学院のレギュラーだったと誤解してしまう。彼は、青葉学院の二軍、さらに補欠であったのだ。

気の弱い谷口は、その事実を告げることができず、みんなの期待に応えるために人知れず圧倒的な努力を続ける。その後、谷口くんが補欠であったことは部員にも知られるが、谷口の頑張りは彼らを惹きつけた。

『プレイボール』

多くの野球マンガは、主人公が魔球を投げるという非現実的なストーリーであったが、普通の気の弱い下町の中学生たちが、泥臭い努力を続ける物語である。何しろ、ちばあきお先生は、練習そのものを丁寧に描いていく。

谷口の中学卒業後、彼の頑張る精神を引き継いだ丸井、イガラシ、近藤、とキャプテンが代わっていく。

一方、谷口は墨谷高校に入学して、野球を続けていく。これが『プレイボール』の物語である。

努力のリーダーシップ

谷口という地味なキャラクターの魅力は、その努力による巻き込み力である。青葉学院という強敵との対戦に向けて、谷口キャプテンは地獄のノック受けの訓練を行う。メンバーは傷だらけになって次のように言う。

「ちぇ まったく キャプテンがうらやましいぜ・・・ただノックさえしてりゃいいんだからな」

「みんなキャプテンに抗議しようぜ!」

谷口の家に行くと、谷口の母ちゃんは「近くの神社に行った」と言う。部員たちがそこで見たものは、父ちゃんと一緒にノック受けの特訓をする谷口だった。みんなの練習の後に自分の練習をしていたのだ。

次ページ「頑張る」は伝染する
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT