県立高校生全員、タブレット5万円自腹購入の真意
――それにしても、全県でIT教育を導入するのは簡単ではないはずです。何かそれを受け入れる土壌はあったのでしょうか?
福田:国の動きとして、2004年に先生方の授業の中にパソコンを入れていこうという流れがありました。でもその頃はまだワープロが主流で、実際パソコンの整備に5年もかかったくらいで、もともと先進的だったわけではありません。
ただ、2008年に佐賀県知事の発案で「佐賀ICTビジョン2008」が策定されました。このときには、IT化を教育に特化したものとしてではなく、行政全体、組織横断的にIT化を進めることになりました。こうした土壌があったので、教育の中にITを入れようと言っても、行政も現場も大きなストレスにはならなかったのだと思います。
教育は一度始めたら、そう簡単には止められません。たとえば、お兄ちゃんがすごくいい教育を受けたのに、弟が入学したら終わっていたということは、ありえないことなのです。継続性を無視したら、学校と親との信頼関係は崩れてしまいますから。総務省主催のフューチャースクールなどを実施しましたが、それは「国の実証期間が終わっても佐賀県として続ける」という覚悟の現れです。そのくらいの覚悟を持たないと、子どもたちに失礼だと思ってやっています。
――県立高校の生徒全員に自腹で5万円のタブレットを購入させたことが話題になりました。
福田:地元の新聞で「タブレット5万円」と報道されたことで、「なんでこんなに高いのか」といった多くの批判の声をいただきました。確かに、タブレットであれば何でもよいと考えれば、家電店では1万円くらいで端末が買えるので、高く見えますよね。でも実際は、県内の校長先生から「絶対に必要な物は何か」とヒアリングしたうえで、辞書を開発段階から入れていたり、授業で使う教材などをすべて入れての金額です。
ただ、それでも5万円は高く聞こえるかもしれません。それでも買ってもらった理由は、「備品」ではダメだと思うからです。備品では生徒が家に持って帰って、自由に調べたりもできないのです。そう考えたら、どうしても購入してもらいたかった。ちなみに県議会を含め、「購入していただくこと」に対しての反対の声はあまり上がりませんでした。
――5万円を支出することが大変な生徒への配慮はあるのでしょうか。
福田:タブレット端末が買えないから県立高校を受験できないということがあるなら、それは本末転倒です。そのような状況が生じないよう、奨学金の制度を充実させました。
ひとつは卒業してから自分で返す奨学金。もうひとつは、前もって保護者に県が5万円を貸し、在学中に返してもらう奨学金です。それでも厳しい家庭、たとえば生活保護家庭については、タブレット端末が授業に必要な教具であることを厚労省に説明し、認定してもらいました。ここまですると、タブレット端末が買えないから受験できない、という子どもはいなくなります。
ただ、2割強の家庭が、家にインターネット環境がない状況です。学校内は自由にネットが使える状況ですが、ネットが使えるようにとモバイルルーターを家に置けば、月々数千円の出費となり、かなりの負担になります。
そこで、教材会社にもお願いして、ネット環境がなくても教材が使えるよう、タブレット本体に教材を入れてほしいと頼みました。それでもやはり、家でネットが使える子とそうでない子は存在したままです。ただ、学校の授業で使う教材だけは、誰でもが同じ条件で使えるようにしたかったのです。
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