個人事業主とサラリーマンは、こだわり方が異なる
サラリーマンは、会社のおカネ、すなわち他人のおカネで過ごしている現実がある。営業で自社の製品を取引先に売り込むときにも、新たな商品やサービスを企画する際にも、会社のおカネを軸として考えている。
また毎月の給与も一定なので、その枠組みの中にとらわれて発想しがちである。出張のときには、与えられた日当の枠内で支出を考える。またAさん自身は、住宅ローンを抱えていたので、裁量のあるおカネの使い方ができなかったと反省していた。
しかし個人事業主である彼らは、自分の責任で、収入と支出の両方をコントロールしながら仕事をしている。長い目で見ると、成長度合いが違ってくるし、能力差にもつながるのではないかとAさんは感じた。
「働かないオジサン」になるのは、いつまで経っても自分のおカネを扱っていないこと、つまりおカネに対する感度が低いことが一因だと彼は言うのである。
私がAさんに、「なぜそのようなことを感じたのか?」と聞くと、「保険に加入する際に、個人事業主とサラリーマンとは違いがみられるからだ」と切り出した。彼の長い保険商品の販売経験によると、個人事業主はこだわりが強い。そのため保険契約もなかなか決まらない。それに比べるとサラリーマンは、保険料の額が払える範囲だと確認すると、すんなり決める人が多かった。個人事業主は、収入と支出を両てんびんにかけて検討するから、簡単に決まらないことに気づいた。前から気になっていた疑問が、同窓生との会話で氷解したのだ。
Aさんの話を聞いて、ある編集者の発言を思い出した。「フリーランスの人のほうが、研究所の研究員や大学教授など、定期収入がある人に比べて、文言の直しや発売時期などへのこだわりは強く、すべてに対してシビアだ」という内容だった。サラリーマンの私は、淡白な部類に入るのだろうと思いながら、編集者の話を聞いていた。
身銭を切れ
サラリーマンは、「収入は定額だ」というライフスタイルが身に付いているからか、自分自身に対する新規投資や先行投資にもそれほど積極的ではない。逆に、仕事によるストレスを解消するためにおカネを使うことが少なくない。
会社員はもっと自己の成長にお金をかけ、身銭を切るべきであろう。そうするとおカネの価値や意味合いが自分の中で明らかになってくる。
評論家の渡部昇一氏は、その著書の中で「凡人の場合、身銭を切るということが、判断力を確実に向上させるよい方法になる」と述べている。
私は、会社の接待でいくら高額の会席料理を食べても、おいしいと感じたことがない。一方、自分でおカネを出せば五感がそれだけ研ぎ澄まされる。庶民的な店の餃子や豚まんのほうが、よほどおいしいのである。
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