「グローバルやんちゃ夫」が作る"最高の会社" 「従業員は家族」経営でも利益を出す、夫婦の戦略

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どうして、別れなかったのですか? そもそも、どうして、堅実な冴華さんが、こういう男性と結婚したのですか? ストレートに尋ねると、ストレートな答えが返ってきた。「こいつと付き合ったら苦労するけれど、こいつしかいない!と思ったのです」。秀郎さんの家庭の事情を知り、この人は愛情を求めているんだな、とわかったこともある。

それでも、苦労して貯めたおカネをすべて使い込まれるのは、つらかったはずだ。冴華さんは一度、先輩経営者の女性に、愚痴をこぼしたことがある。そのとき、先輩女性はこう言った。「別れることも、(夫の仕事を一緒に)やらないことも、できたよね」。核心を突かれて冴華さんは思った。「そうだ、私が選んだことなんだ」と。まじめなだけでなく潔い性格なのだ。

経営戦略を考える中で出合った「アート塗装」

腹をくくったのは、結婚3年目、冴華さん、26歳のとき。夫婦一緒に経営の勉強をし、今後の戦略を考えるようになった。特にこの頃、地元の岩手県中小企業家同友会で半年間勉強し、経営の目的や、ほかの塗装会社とどう違いを出すか、徹底的に考えたことが今につながっている。

川上塗装工業の事業の柱になる「アート塗装」に出合ったのもこの頃で、盛岡市の塗装工業会が開催した講習会に出席し、群馬県の会社が大理石のように見えるアート塗装を披露するのを見て「これだ!」と思った。冬に仕事が忙しくない時期を利用して、早速、社員皆で練習した。写真に映っているオフィスの壁も、アート塗装によるものだ。

「僕の人生で大きな出来事は3つあります」と秀郎さんは言う。「1つめは大きな事故に遭ったこと。2つめは中小企業同友会での勉強会……」。そのとき、冴華さんが言った。「私と出会ったことじゃないの!?」。するとすかさず「今、言おうと思ってたんだよ!」と秀郎さんが切り返した。こんなところにも、裏表のない夫婦のコミュニケーションがうかがえた。

現在の年商は約5000万円。かつては元請け1割、下請け9割で利益率1割くらいだったが、アート塗装を始めてから、元請けが7割へと上がり、利益率は4割にまで上がった。

細かい工夫も積み重ねている。「建設業界の現場には不良っぽい人が多いんです」と秀郎さん。「茶髪、ニッカはいて、ピアスであいさつしない、みたいな。仕事の質が低くて冬になると雇用を切っちゃう経営者が多い。そうじゃなくて、僕は当たり前のこととして“いい仕事”をしてお客様に喜んでほしい。そして、いずれは日本一の”One Piece”みたいな会社を作りたいんです」。

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