「餃子の王将」、なぜ本場中国で失敗したのか あまりに手ぬるかった現地化戦略

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もちろん、日本のファストフードで中国に進出して成功しているところも多い。イタリア料理のサイゼリヤはかなり頑張っている。ラーメンでも味千ラーメンを筆頭に多くのチェーンが健闘している。

ラーメンは日本人の感覚では中華料理だが、これはほとんど日本料理といっていいほどに独自の進化を遂げており、中国人にとってはまったく未知の味になっている。特に、トンコツスープは比較的中国人になじみやすい味だったので、味千ラーメンや一風堂には、より大きな商機があるようである。

吉野家は「価格設定」と「内装」で現地化

一方、牛丼の吉野家が中華圏で成功を治めている最大の理由は、牛丼という料理自体中国や台湾、香港の人々になじみがなかったことと、そのなじみがないという点を逆手にとって高級化路線を選んだことだろう。

日本で一人前250円程度で食べられる吉野屋の牛丼は、中国では同じ並で12人民元=220円、台湾では95台湾ドル=325円と、どちらもほぼ日本並みかそれより高い値段になっている。これは物価差を考えればかなり高い感覚だ。内装も家族連れやカップルで食べられるよう、テーブル席が中心。日本のようなカウンター席は、基本的に設置していない。

中華圏では基本的に、料理は複数人で食べるものだ。一人のときは弁当などで済ませ、外食する際は最低でも2人、普通は4人や5人一緒に出掛ける。いくら牛丼が一人一椀の食べ物だといっても、やはり一人で黙々と外食しているというのは中国人にとって淋しすぎるのだ。その点でも、吉野家の路線は的を射ている。

王将も多少は高級化路線を歩もうとはしたのだろうが、核となるメニューが中国で“THE 庶民の料理”である餃子だったわけで、牛丼とはわけが違う。どうしてもコンテンツとして弱かった感が否めない。

上海で成功したCoCo壱番屋(ココイチ)のカレーも、四川では苦戦しているという。また、さまざまな中華料理のメニューで多種多様な調理法のミンチ肉を好んで食べる中国では、日本のファミレスの主力メニューであるハンバーグはあまり好まれない。つまり味、価格、宣伝、戦略などのバランスが取れていて、初めて成功するのが外食産業の海外進出なのだ。そもそもが「日本流を持ち込めば成功する」というほど、単純なことではない。

こうして見てみると、「日本の味、日本のやり方が通用しなかった」というコメントは、確かにその通りかもしれないが、それを十二分に承知したうえで生き残りに苦闘しているほかの外食業者たちから「そんなの当たり前ですよ」と失笑を買いそうなほど、凡庸過ぎる敗北の弁ではないだろうか。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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