米国経済は長期停滞か、高成長復帰か

エリート層の経済思想に変化

「2011年から製造業の米国回帰を予想し、調査しているが、その動きは当初想定より速い。少なくともすでに300社以上の米国企業が戻った」。ボストン コンサルティング グループのシニア・パートナーであるハロルド・サーキン氏はやや興奮気味に話す。

日本よりいち早く1970年代から製造業の海外流出が本格化した米国。しかし昨今は、シェール革命によるエネルギーコストの低下と人件費の安さを両輪に、中国や欧州などから工場が戻り始めたという。「リーマンショック以降、米国企業は生産性向上のための自動化投資に熱心になった。今では労働生産性調整後の人件費で考えれば、米国の生産コストは中国より6%高いだけ。これなら輸送費などを考えれば、米国で生産する利点は十分にある」とサーキン氏は話す。

先進国にとってグローバル化拡大に伴う製造業の海外流出は、景気不振の大きな理由の1つだ。その流れに変化が出てきたことは米国経済や労働者にとって朗報に違いない。製造業のブルーカラーは時給15ドル程度であり、同8~9ドルのサービス業に比べ、条件は格段にいい。

だが、この動向によって米国の雇用がどれくらい改善するかを聞くと、サーキン氏は言葉を濁した。「一連の工場回帰でどれだけ雇用が改善したかを示すデータはない。300社以上と言っても、一つ一つの雇用規模は米国経済全体に比べれば小さい」。

中間層を再興させるほどの雇用吸収力はない

要するにこういうことだ。工場の米国回帰、さらに言えば世界最強のIT産業の隆盛など米国の産業界に明るい材料はある。しかしこれらの産業には少なくとも今のところ、米国の分厚い中間層を再興させるほどの雇用吸収力はない。ロボットなどで大幅な自動化を進める工場で生まれる雇用数は昔に比べ小さいのだ。今月末、FRB(米連邦準備制度理事会)は異例の量的緩和政策を終了する見通しだが、米国がこのままそれなりの景気回復を続けても質のよい雇用が足りず、慢性的に労働市場に余剰感が残るような状態が続く可能性がある。

こうした状況は、昨年11月のIMF(国際通貨基金)の講演でローレンス・サマーズ元米財務長官が唱え、注目を浴びた「長期停滞論」とも符号する。彼は言う。日米欧の先進国は、ITなどの技術革新に伴いベンチャービジネスの投資支出や雇用創出力が小型化したり、人口の伸び鈍化で投資機会が減退したり、貯蓄過剰によって需要不足が続いたりしている。

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