米国経済は長期停滞か、高成長復帰か エリート層の経済思想に変化

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実は、こうした考え方自体は80年代以降の主流派経済学の中では目立たなかったが、目新しいものではない。古くはJ.M.ケインズやアルビン・ハンセンなど過去の経済学者の学説と通底するものだ。むしろ、長期停滞論の台頭について注目すべきは、アイデア以外の別のところにある。

それは民主党の中では右派(政府の介入を忌避し自由市場を重視)に該当するサマーズ氏がこのような積極的財政政策を打ち出してきたという、エリート層の意識の変化である。共和党も今回の中間選挙で、極右のティーパーティ(茶会派)に対して穏健派が党内で巻き返しており、政府機関閉鎖までをも巻き起こした昨年までの状況に比べ、財政支出に寛容な方向を向きつつある。

バーナンキは「金融政策で十分」

もちろん、これらはまだ小さな変化だ。最近もバーナンキ前FRB議長が、通常の経済学のロジックを使ってサマーズ氏の長期停滞論に異議を唱えた。冒頭の話のように、シェール革命などによって米国の国内生産や雇用が増え、需要不足は縮小するし、経済テコ入れには金融政策で十分という考え方だ。

このように、米国の景気回復が今後、どのような道筋をたどるのかは、経済政策をめぐる思想レベルの変化にも影響を与えそうだ。そしてそれは世界の経済政策にも影響を与えるだろう。

週刊東洋経済2014年11月1日号(10月27日発売)の特集は「アメリカ 分裂する大国」です。オバマ大統領誕生の熱狂から6年。再び岐路に立つ米国。国中から聞こえる不協和音を奏でながら「強いアメリカ」はどこへ向かうのか。全60ページで取り上げました。
野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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