「クールジャパン」、本来は何をするべきか カンヌ「MIPCOM2014」で聞いた生の声

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海外での日本ドラマ放映料は安価である。そのため、ドラマ輸出全体をトータルすると実質赤字ではないかと言われている。斎藤氏も「関わる人間の人件費をマジメに算出すると、たしかに赤字かもしれない。しかし、ドラマの海外輸出には、番組を作っている側が、海外に向けて発信したいという純粋な動機があるのではないか」と話す。だからといって、赤字のままであっていいわけではない。「努力次第ではプラスに持って行ける余地も大きい」とも付け加えた。

輸出を黒字化するためのお手本は、すでにある。前述のように、ベトナムはドラマを入り口に”韓流ブーム”のまっただ中。前出のTBS・林氏は「無料に近い形で韓流ドラマを流し、火が付いたところで収益に変えるが、ベトナムは一種のブームになっており、韓国のものならば、電機製品でも食べ物でも、なんでも受け入れられる空気の中にある」と指摘する。

韓国が先にお手本を見せている

まさにクールジャパン機構が目指す”日本の売り込み”を、韓国が先にお手本として見せているとも言える。映像コンテンツには、それだけの力があるという証明だろう。

そこで問題となるのは、コンテンツ輸出が行いにくくなっているなかで、どう折り合いを付けていくかだ。

アジア向けのドラマ輸出だけを取り上げても、韓国のように”日本で稼げば収支が合う”といった柱となる輸出先がない。アニメの場合は、対象視聴者が狭く子ども向けに幅広くさまざまな国で見てもらうコンテンツが生まれにくい環境もある。”高品位”なコンテンツを作ったとしても、”質”の面で輸出しにくい(輸出先の志向と会わないなど)ものならば、そもそもクールジャパン戦略で日本を売り込む核とはなりにくい。

「コンテンツ輸出額という意味では、先進国の中ではビリに近い」という状況で、国家主導のイメージ戦略をしようというのならば、単にお金を集めて分配するだけでなく、全体戦略が必要になるだろう。輸出しやすいコンテンツが生まれやすい環境を整えなければ、クールジャパンが狙う目的は達成できない。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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