水ビジネスの幻想と現実[2]--日本勢唯一の“独壇場”に異変、水処理膜の覇権争い

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両社はそれぞれ工業設備や化学プラントの効率運用を支援するソリューション事業に強みを有する。そのノウハウを水ビジネスにも応用し、膜だけでなく水処理施設の効率運営まで丸ごと一括提案を図っている。膜の単品供給が主流の日本企業とは違う事業モデルで市場の獲得を狙う。

泰然自若の日本企業 歴史は繰り返すか

経済産業省が今春まとめた水ビジネスの報告書。ここでも新規参入の脅威に触れ「従来どおりのビジネスモデルのままで優位性を維持するには限界が生じている」と、日本の膜メーカーに警戒を呼びかけた。

しかし、当の日本の膜メーカーは、おおむね動向を静観している。「ポーンと出ていってそんな簡単に取れる市場ではない。新規参入組とわれわれとでは積み上げてきた実績の差が違う」。日本企業のうち1社はこう余裕の態度すら見せる。現時点では新規の膜メーカーに大きな案件を奪われた体験はない。技術、営業網にも自信がある。いったいなぜ恐れる必要があるのか、そう言いたげだ。

しかし、半導体や液晶など電機産業の歴史を見るまでもなく、こうした覇権が定着したケースは少ない。先端技術を誇る日本製造業は、やがてアジアなど後発企業の追い上げにより、足元を崩されるパターンが過去存在していたのは事実である。

一つの不気味な類似性がある。実は、逆浸透膜モジュールというのは「直径は8インチ×1016ミリ」などとサイズについて業界標準が決まっている。ゆえに一度水処理施設に納入しても交換需要を延々と享受できるわけではない。8年程度の耐用年数が過ぎれば、どのメーカーとも入れ替え可能。まさしく電機産業でよく見られるモジュール品(規格品)なのである。技術力を武器に高性能膜で高いシェアを有する日本の膜メーカーに、今唯一足りないものは危機感だろう。
(渡辺清治、西澤佑介、野津滋、並木厚憲)

■タイトル下写真:水処理膜が並ぶ海水淡水化施設内の様子(福岡地区水道企業団提供)

※東洋経済2010年9月11日号の記事に加筆修正

■水ビジネスの幻想と現実 関連記事
[1] 脚光浴びる“86兆円産業”、日本勢に勝算はあるか
[3] キーパーソンに聞く/三井物産、丸紅、産業革新機構

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