水ビジネスの幻想と現実[3]--キーパーソンに聞く/三井物産、丸紅、産業革新機構

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新興国の上下水道インフラ整備需要を背景として、にわかに成長産業として脚光を浴びる水のインフラ関連ビジネス。日本勢の主役は、海外で発電所や鉄道などのインフラ案件を手がけてきた総合商社だ。各社は海外の水事業会社買収などによる体制整備を進め、水の分野でもインフラ需要の取り込みを狙う。総合商社を代表して三井物産と丸紅に水事業の今後の具体的な戦略などを、また、三菱商事とのタッグで豪州・水事業会社の買収に乗り出す産業革新機構にその意図を聞いた。

■三井物産
 プロジェクト開発第一部第二営業室室長 若菜康一氏

--ハイフラックスと中国で提携に踏み切った。

当社は海外インフラ事業の強化に力を入れており、上下水道や工業廃水などの水関連分野もその一つ。2006年にタイ最大の民間水事業会社、タイタップウォーターサプライに出資参画し、08年にはメキシコの水専門のエンジニアリング会社を買収するなど、事業規模拡大と機能拡張のための投資を行ってきた。今回の提携で中国にも確固たる足場を築き、海外の水事業を大きく伸ばしたい。

巨大な人口を抱え、経済・産業成長の著しい中国は、新興国の中でもとりわけ水のインフラ整備需要が旺盛だ。しかし、当社が単身で乗り込んだところで、事業を推進することは容易ではない。ハイフラックスはシンガポールの企業だが、1994年から中国に参入しているため、中国国内に幅広いネットワークを持ち、すでに下水処理場などのBOTを数多く手掛けている。水のインフラに関するノウハウ、中国での実績・経験も申し分ない。


ハイフラックスと提携調印

--物産単独ではどういった点が難しいのか。

われわれは中国の水インフラに関して実績がないので、今のままでは事実上、入札に参加できない。仮に入札に参加できたとしても、いろんな難しさがある。各種インフラの中でも自治体が管轄する上下水道分野は特にローカル性が強く、(発注者である)自治体との日常的な接点がないとニーズが読み取れない。
 
 土地勘のない地域ではコンストラクション・マネジメント(建設や設備、予算などプロジェクト全体の進行を管理すること)も難しい。こうした現実を考えると、ハイフラックスのようなすでに現地に根を張った企業とのパートナーシップが必須になる。

--物産は新設合弁会社の経営にどこまで関与するのか。

当社は単なる資金スポンサーになるつもりはない。あくまで事業主体として、共同で商売をやっていく。だからこそ、新設する合弁会社も50対50の折半出資にこだわった。今回の合弁をベースにして、中国の水のインフラ需要を取り込みに行く。具体的には、処理場の新設が相次いでる内陸寄り都市部のプロジェクト案件を取っていく。

また、中国では水不足で困っている工場が多く、工業用の排水・リサイクル水分野も有望だ。産業界との接点を活かし、製造業の日系進出企業にも積極的にアプローチしたい。今回の提携は中国を対象としたものだが、中国以外でも同社と協力していければと思っている。

--中国以外で期待する地域は?

中近東も大きなインフラ需要がある。これまで中東で水のインフラといえば造水のための海水淡水化プラントだったが、今後は、排水処理と水の有効活用のためのリサイクル施設が焦点になるだろう。中東で総合商社は発電などのインフラに数多く関わってきた歴史があり、商社の強みが発揮しやすい地域。水の分野でも、早期に中東での体制を整えたい。

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