水ビジネスの幻想と現実[1]--脚光浴びる“86兆円産業”、日本勢に勝算はあるか

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中国など新興国のインフラ需要を背景に、水のインフラ分野が成長産業として注目を集めている。日本勢も総合商社が中心となって海外での需要取り込みを狙うが、果たして宝の山にたどりつけるのか--。

この秋、水ビジネスを舞台とした、日本の官民連合による海外企業買収が実現する。三菱商事、日揮など民間企業3社と産業革新機構がタッグを組み、豪州の水事業会社の経営に乗り出すというのだ。
 買収するのは、英国の大手水道事業会社、ユナイテッド・ユーティリティーズ(UU)の豪州部門(UUA)。UUAは豪州第2位の民間水事業会社で、東部の上下水道や産業排水など14カ所の処理場・施設を運営する。買収金額は190億円で、買収後の経営を担う三菱商事が5割弱、政府出資の投資ファンド、産業革新機構も3割を出資する。

英UU社は地元英国でのインフラ整備資金を捻出するために海外事業資産の売却を進めており、UUAは先進国最後の大型売却案件だった。その注目度は高く、欧州の有力水道事業会社や地元のゼネコン系水事業会社、年金ファンドなどに加え、日本勢では丸紅も買い手として立候補。世界から15社もの企業が入札に参加する激戦の末、もっとも高い金額を提示した三菱商事連合が手中に収めた。自治体などUUAの顧客の了承を得て、10月中には買収手続きが完了する予定だ。

三菱商事は海外水事業への本格進出を目指しており、今回の買収は、海外における施設運営などのノウハウ吸収と実績作りを狙ったもの。一定規模の事業実績がないと、海外では大型プロジェクトの入札参加が難しい。「UUAは上下水道や海水淡水化、工業排水も手掛け、水に関するあらゆる業務のノウハウ、実績がある。海外の水ビジネスへ本格的に出て行くためには、何としてもUUAが欲しかった」(三菱商事幹部)。

新興国の水インフラ需要が拡大、2025年には86兆円産業へ

8月には、同じ総合商社の三井物産が、シンガポールの水事業会社、ハイフラックスとの提携に踏み切った。舞台は経済成長が続く中国。ハイフラックスは中国で下水処理場などの建設・運営一括業務を受託し、江蘇省など22カ所の施設運営に携わる。両社は折半出資の新会社を設立したうえで、ハイフラックスのそうした中国内の事業資産を買い取り、今後は中国の水事業を共同で運営する。三井物産の投資額は100億円超。中国のインフラ需要を取り込みたい三井物産と、事業拡大のための資金調達力を高めたいハイフラックスの思惑が一致し、今回の提携につながった。

水ビジネスに注目するのは商社だけではない。

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