「個人の力で稼ぐ」ことにこだわる30歳男性の迷走 ホワイト企業に転職も「焦り募る日々」の理由

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一昔前であれば、ある意味ここがひとつのゴールになったかもしれない。しかし、古川さんのQLCは続いており、むしろ余計に「焦りが募る日々」だったという。

その理由は、副業として始めていたアフィリエイトブログや、ライター業。以前から抱き続けていた「個人の力で稼ぐ」ことに真剣に向き合い始めていたのだが、そこでなかなか結果が出なかったのだ。

「始めてから数カ月は結果も出ず、『このまま続けていって本当に稼げるようになるのか』『組織に属さず個人で生きるという、目標は達成できるのか』という、強烈な焦燥感を感じていました。

副業をするなかで時間が惜しくなって人付き合いが煩わしくなり、LINEの友達を200人から20人にしたり、いろんなグループを退会するなど、人間関係を断捨離したこともありました。

その他にも、ミニマリストの動画の影響で家の中の物を捨てたり、引っ越しを繰り返したり、恋愛未経験ゆえの自信のなさを払拭しようとマッチングアプリにのめり込んだり、そこで2人と付き合うも、付き合えたことで燃え尽きてすぐに別れてしまったり……そんなふうに、行き当たりばったりに行動していた時期でした」

選択肢が増え、人生設計がひどく難しい現代

にこやかで、人当たりのいい雰囲気の古川さんは、いかにも顧客の対応をする仕事が向いていそうな男性だ。そういう意味では、自分に合った職種を選びつつ、かつ展望のある会社にうまく転職したようにも見える。なのに、なぜ「個人で稼ぐ」ことにそこまでこだわるのか。置かれた場所で咲きなさい、ではダメなのか――。

そんな疑問も聞こえてきそうだが、ここで冒頭に登場した、QLC研究の第一人者であるグリニッジ大学・ロビンソン教授の言葉を紹介したい。(※東洋経済オンラインでは2月2日に、ロビンソン教授にZoomでインタビュー取材を実施した。詳細なインタビュー記事は本連載の次回3回目に配信予定だ)

若者たちがなぜQLCに苦しむのか、その理由が部分的にでも掴めるはずだ。

「人生が50~60年だった昔と違い、今は『人生100年時代』と言われています。たとえば1950~1960年代頃、アメリカやヨーロッパの成人は、20代前半で結婚し、親になるのが普通でした。しかし、今は多くの若者が高等教育を受け、女性も社会で働き、多くのカップルが結婚前に同棲するようになり、30歳を超えて初めて子供を持つのが主流になっています。

社会の状況や人々の価値観が変化した結果、20代中盤で『自分の人生をどのようなものにしていくべきか』を考え始める人が増えました。しかも、多くの選択肢を選ぶ余裕があり、またそれを変更することも可能になっています。社会が複雑になる一方で、個人が取ることができる選択肢は多様になっているのが、QLCに悩む若者が増えている背景なのです」

個人が、自分らしい人生を送れる時代になったのはよいことだ。しかし、自分の責任でなにかを選ぶことには、相応のストレスやプレッシャーがあるもの。古川さんが掲げた「組織に属さず個人で生きる」という目標も、決して容易に達成できるものではない。強い焦燥感に駆られたのも、自然なことだろう。

もちろん、「このままでいいのか」という焦りを抱くのは、他の世代でもあることだ。たとえば40~50代にはミッドライフクライシス(中年の危機)があると言われ、経験者も多いだろう。それらと比較し、「若者たちはもっとつらい」と主張する意図は、この連載にはない。

しかし、変化の激しい時代を生きる今の若者たちに特有のつらさがあるということは、ご理解いただけるのではないだろうか。

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