「お前の情熱が足りないから、プロジェクトが動かないんだ!」
2012年12月3日、ソフトバンク本社の社長室。緊急会議で役員たちが集められた中、激高した孫正義社長は”末席”に座る1人の社員をにらみつけていた。
怒りの矛先は林要。今年6月にソフトバンクが発表し、世間を驚かせたヒューマノイドロボット「Pepper(ペッパー)」の開発リーダーである。4月に入社したばかりの新参者は、プロジェクトの推進を任されていた。
「100個のアイデアを持ってこい」
前職はトヨタ自動車のエンジニア。若くしてF1マシンの開発に関わるなど、厳しい場数を踏んできたという自負はあった。ところが、新たな挑戦に選んだロボット開発は困難の連続だった。
「企画を練り直せ。あさってまでに100個のアイデアを持ってこい!」
「明日じゃなくて、あさってか・・・」。孫社長が1日の猶予をくれたことにわずかな”愛”を感じつつも、いざ企画を提案すると首を縦に振ってくれない。とうとう孫社長の怒りが大爆発した――。
それから1年半後にデビューしたペッパーは、全国のソフトバンクショップに出勤し、接客をこなしている。その役割はジョークを飛ばしたり、多彩なアクションを披露するなど、訪れた人たちを楽しませること。人間の作業を手伝ったり、便利な機能を実装するような従来のロボットとは一線を画す。人とのコミュニケーションに特化していることが最大の特徴だ。
たちまち人気者になったペッパー。トヨタのエンジニアは、いかにしてソフトバンクのロボット開発にたどり着き、ペッパーをこの世に送り出したのか。
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