動物界にもあった「格差社会」の知られざる実態 親の「資産」を受け継ぐ動物が研究で明らかに

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スミス教授は今後、調査を拡大し、さらに数千種の動物で資産と特権について調べる計画だ。デューク大学の進化人類学者にして遺伝学者、社会的要因が霊長類の健康にどのように影響するかを研究しているジェニー・タン氏は、「『特権』や『特権の循環の永続化』といった用語の利用は、動物研究ではややめずらしい」と話す。

「理由の1つは、私たち人間が読むには少し荷が重いからだ」。しかし同氏は、動物がどのように資源を受け継ぐかを見るために、人間の物事の味方を使うというアイデアには、将来性があると考えている。「このアイデアは非常に有益だ。動物間の不平等がどこから来るかを理解する道具箱のようなものになる」。

人類学と動物生物学を組み合わせる可能性

ニューメキシコ大学の進化人類学者で、人間社会における不平等を研究しているシオバン・マティソン氏も、特権の人類学と動物生物学の組み合わせには可能性があると考えている。マティソン教授は「人間は動物だ」「私たちは間違いなく、ほかの動物の不平等を促す要素のいくつかから影響を受けている」と話す。

だからといって、動物研究が、人間の不平等が生じる経緯に関するあらゆる疑問の答えをくれるとは限らないとマティソン教授は付け加える。「人間は、ほかのほとんどの種よりも、圧倒的に連携を好む」。私たちの文化的制度は不平等を助長する可能性があるが、不平等と戦うことも可能だと同教授は言う。

スミス教授は、人間から得た知見から、動物における不平等についてより多くを学ぶことを第一に考えているが、科学は逆の方向にも作用しうると考えている。科学者が動物で発見したルールのいくつかは、人間にも適用できるかもしれない。

しかし、自然界にある不平等を発見することと、それを正当化することは同じではない、とスミス教授は強調する。この研究は「『どこにでもあることだから、どうしようもない』と誤解される可能性がある」(スミス教授)。

(執筆:Elizabeth Preston記者)
2022 The New York Times Company

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