「フラッシュ・ボーイズ」は日本にもいる!

超高速取引を前に、投資家は無力なカモ

『フラッシュ・ボーイズ』の著者であるマイケル・ルイス(写真:ロイター/アフロ)
マイケル・ルイス(Michael Lewis)は1960年生まれのノンフィクション作家。プリンストン大学で芸術史の学士号を、ロンドン大学で経済学の修士号を取得した後に、ソロモン・ブラザーズで債券セールスマンとして活躍した。その経験をもとに、1989年に『ライアーズ・ポーカー』で作家としてデビュー。日本でもヒットした作品としては、ネットスケープ共同創業者のジム・クラーク氏を描いた『The New New Thing』、メジャーリーグの貧乏球団・オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMを描いた『マネー・ボール』などがある。
そのルイスの最新作が、この春、ウォールストリートを揺るがした『フラッシュ・ボーイズ』だ。10億分の1秒の超高速取引(HFT=High Frequency Trading)で、並みの投資家よりわずかに先に取引を執行。合法的に勝率100%の金融取引を行う理系集団の実態を暴いた。
3月30日の発売前後、ウォールストリートは蜂の巣をつついたような騒ぎになった。通常のコンピュータ処理能力、凡庸な通信回線で取引を行っている機関投資家、個人投資家は絶対に勝てないゲームをやっているのではないか、というわけだ。そして10月10日には日本語版が文芸春秋社より発売。日本でも、大きな論争を呼ぶことは間違いない。ここで、オリンパス事件をスクープした調査報道誌「FACTA」発行人の阿部重夫氏が同書に寄せた解説全文を掲載する。(編集部)

 

天はときどき二物を与えるらしい。

プリンストン大学で学士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で修士号を得て、ウォール街を経験したノンフィクション作家、マイケル・ルイスがまた新しい鉱脈をみつけた。今度はアメフトでも野球でもなく、かつての本業である金融取引だが、リーマンショックを描いた前々作の『世紀の空売り』から一歩進んで、その裏で人知れず進んでいた最先端の「超高速取引」(HFT)である。

勝率100%! ギャンブラーとて、それが徒夢(あだゆめ)に過ぎないことは知っている。だが、超高速取引なら、100%という勝率が〝手品〞のように可能になるのだ。

まさか! だが、本書にも登場する米国の超高速取引業者ヴァーチュ・フィナンシャルが「創業5年半で負けは1日だけ。それも発注ミスが原因」と自慢して袋叩きにあい、2014年4月予定の上場を中止したほどだ。

なぜ「不敗」を続けられるのか

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もちろん、「不敗」の手品にはからくりがある。要は、フロントランニング(先回り)の一種――顧客から注文を受けた証券会社などの仲介業者が、その売買が成立する前に注文情報をもとに有利な条件で自己売買して儲けるのに類した手口だからだ。

その仕組みはまさしく、東京大学工学部の石川正俊教授の研究室が開発した「勝率100%じゃんけんロボット」と同じだ。国際ロボット展2013に出展され、YouTubeにもアップして、1年余で386万回のビューを稼いだから、画像をご覧になった人もいるだろう。

人間の手のひらと、3本指の機械の手が対峙する。ジャンケンポン! 人間がグーを出しても、パーを出しても、チョキを出しても、ロボットは絶対に負けない。

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