天はときどき二物を与えるらしい。
プリンストン大学で学士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で修士号を得て、ウォール街を経験したノンフィクション作家、マイケル・ルイスがまた新しい鉱脈をみつけた。今度はアメフトでも野球でもなく、かつての本業である金融取引だが、リーマンショックを描いた前々作の『世紀の空売り』から一歩進んで、その裏で人知れず進んでいた最先端の「超高速取引」(HFT)である。
勝率100%! ギャンブラーとて、それが徒夢(あだゆめ)に過ぎないことは知っている。だが、超高速取引なら、100%という勝率が〝手品〞のように可能になるのだ。
まさか! だが、本書にも登場する米国の超高速取引業者ヴァーチュ・フィナンシャルが「創業5年半で負けは1日だけ。それも発注ミスが原因」と自慢して袋叩きにあい、2014年4月予定の上場を中止したほどだ。
なぜ「不敗」を続けられるのか
もちろん、「不敗」の手品にはからくりがある。要は、フロントランニング(先回り)の一種――顧客から注文を受けた証券会社などの仲介業者が、その売買が成立する前に注文情報をもとに有利な条件で自己売買して儲けるのに類した手口だからだ。
その仕組みはまさしく、東京大学工学部の石川正俊教授の研究室が開発した「勝率100%じゃんけんロボット」と同じだ。国際ロボット展2013に出展され、YouTubeにもアップして、1年余で386万回のビューを稼いだから、画像をご覧になった人もいるだろう。
人間の手のひらと、3本指の機械の手が対峙する。ジャンケンポン! 人間がグーを出しても、パーを出しても、チョキを出しても、ロボットは絶対に負けない。
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