「STAP問題」は、起こるべくして起きた

『噓と絶望の生命科学』を書いた榎木英介氏に聞く(上)

(撮影:今祥雄)
近著『嘘と絶望の生命科学』(文春新書)で、STAP問題をはじめとして、生命科学分野で度重なる研究不正とそれが起きる背景を活写した榎木英介博士。今、科学の世界では研究費の配分を巡り、極端な成果主義が横行している。その中で商業化した論文誌への過度の信用や、博士号を取得したにもかかわらず定職にさえ就けない、いわゆるポスドク問題なども生じ、複合的に科学界を蝕んでいる。
榎木博士自身も東大理学部の生命科学系研究室から医学に転じて博士号を取得した。現在は病理医として活躍するかたわら、科学界の問題解消のため執筆活動も続けている。STAP問題でも、筆頭著者個人の問題は別としても、騒動の裏には同様の問題が流れているという。

 

――1月末に始まったSTAP騒動は現時点では一服したように見えますが、著書にある、背景となった問題は未解決のまま残されているように見えます。

STAP問題は世界共通の科学界の矛盾を明らかにしましたが、いずれも答えを出すのが難しい。与えるべきでない人に博士号を与えてしまったことに端を発し、理研が論文を広く宣伝してしまったという特殊な例ではあります。しかし、根底にあるのは教育のネグレクトであり、これはSTAPだけの問題ではありません。ネグレクトの問題を解決するのはたいへん難しい。

今の大学には、基本をきちんと教える人が少なくなっています。本当なら、研究室に入ってすぐに研究させるのではなく、基本を学ぶ時間を与えなければなりません。ところが、短期的な成果を求め、必要なテクニックだけは教えるが、じっくり育てる気も時間もない。大学院生を労働力、データマシンとしてしか見ていない研究室も少なくない。大学院生を、学費を払って労働をしてくれる「カモネギ」だと言ってはばからない教授もいます。このため、実験ノートを取るといった基本はおろか、論文の書き方もわからないまま放置され、いつまでたっても自立できないのです。

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