「捨て身のリーダー」に変身しない限り袋小路は脱せない

「捨て身のリーダー」に変身しない限り袋小路は脱せない

塩田潮

 ねじれ再現後の初の国会が終わった。

 目についたのは、スマイルなし、引きつった顔、神妙な態度という菅首相の平身低頭ぶりだ。自信を喪失し、すっかり気持ちがへこんでいるのではと見る人もいるが、8月6日に菅首相と三十数年のつきあいの江田前参議院議長に会ったので、近況を聞いてみたら、「そんな人ではない。元気ですよ」という答えだった。

 おそらく国民と野党に対しては低姿勢一辺倒、民主党内や部分連合の組み手にはあの手この手で仕掛けをという硬軟使い分け作戦だろう。だが、成算は乏しい。

 9月の代表選再選は視界ゼロだ。支持勢力の算術計算では勝ち目はない。「猫の目の首相交代は無益」という世論と党内「反菅」勢力の有力対抗馬不在だけが頼りで、肝心の首相への期待や支持は盛り上がらない。仮に続投を果たしても、ねじれは続く。自民党の政権再奪取は霧の中だが、野党側は民主党の自滅・分裂を待望して早期解散・総選挙を唱える。いまのところ民主党との合意形成や政権参加の気配はない。

 起死回生を狙って首相側から解散に打って出る手もあるが、民主党の野党転落や大分裂の危険性があり、使えないカードである。

 八方塞がりの菅首相だが、突破口が見つからないのは、いまも長期政権への執着が強く、権力欲という煩悩を断ち切れないからではないか。

 「一内閣一仕事」という言葉がある。自分の内閣で挑戦すべき重要なテーマを一つだけ掲げる。国民にも国会にも与党内にも強く訴え、プランの目的、達成後の将来像と青写真、工程表を示して実現を目指す。それ以外の野心は捨て去る。内閣が「一仕事」に徹すれば活路が生まれるという歴史の格言だ。

 「一点突破、全面展開」は菅首相の若い頃からの口癖だが、いまこそこの発想に立つべきである。「長期政権の野心」から逆算して組み立てる政略ではなく、「一点突破」で「一仕事」に賭ける「捨て身のリーダー」に変身しない限り、袋小路を脱する道はない。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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