「衆参ねじれ」は絶対悪なのか

「衆参ねじれ」は絶対悪なのか

塩田潮

 衆参ねじれは今回で4回目だ。

 1回目は89年の参院選から93年の細川政権発足まで、2回目は98年の参院選から翌年秋の自自公連立内閣の発足まで、3回目は2007年の参院選から09年の政権交代実現までである。過去の3例のねじれの時代は、「政権の迷走」「不安定な政治」が日常化し、日本全体の低迷と弱体化が進んだと受け止めた人が多かった。
 それは事実だが、ねじれ以前の政治、つまり衆参の与党支配の下での「迅速な政治」が正常な状態で、「政治の遅滞」は回避すべき異常な状態という意識がいまも根強い。長期自民党政権を支えたのは行政優位政治で、「迅速で効率的な政治」が売りだった。行政へのニーズが大きかった成長型社会の時代は、国民は与党・官僚機構一体の行政優位政治を容認した。霞が関は立法府への根回しも担当し、「立法も担う官僚機構」といわれた。

 ところが、90年代以降、官僚主導の破綻や行政優位政治の行き詰まりが明らかになるのと軌を一にして、ねじれが起こった。ねじれは立法府重視となるから、行政優位政治の見直しに役立つ。選挙しか意思表明の機会がない国民は行政優位政治に無力だったが、「議会制民主主義の活性化」というカードを使い、ねじれによって政治構造の転換と政策決定システムの変革に乗り出したと見ることもできる。
 民主党政権はまず行政府での政治主導実現に挑戦したが、官の抵抗にあって後退を余儀なくされた。だが、ねじれ再現によって立法府優位の下で政治主導、官僚支配打破の実験が始まるなら、ねじれも悪くない。

 民主党は「迅速で効率的な政治」でなければという固定観念に縛られ、懸命にねじれ解消を目指すつもりかもしれないが、菅首相が7月30日の記者会見で苦し紛れに口にした「ねじれをマイナスととらえるのではなく」という姿勢は間違いではない。
 最悪の道は「安定政権」「迅速で効率的な政治」「行政優位政治」の幻影を追って、自民党との大連立に走り、国民の選択の機会を奪う政権運営である。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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