「日の丸半導体」復活には5兆円投じる覚悟必要 富士通・元半導体部門トップが直言(後編)

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藤井滋(ふじい・しげる)/SSC(SAMURAI SEMICONDUCTOR corporation)代表取締役。1950年生まれ。1976年神戸大学(電気電子専攻科修士課程)卒、富士通入社。研究所で半導体研究に従事の後、事業部で半導体設計に携わる。2006年、執行役常務として富士通の半導体を含むデバイス事業を統括。2008年富士通マイクロエレクトロニクス副社長兼富士通エレクトロニクス社長、2014年に富士通を退社しSSCを設立し現職(写真:藤井氏提供)

カスタムLSIのビジネスでは、顧客にある程度は設計してもらわないといけない。とくに海外の顧客の場合、自社でサポートする余力がない。ちょうどアメリカ西海岸で出始めていたEDAツール会社をお願いした。それでシノプシスやケイデンスといったEDAツール企業を育ててしまった。

そのときに富士通の設計ルールをあっけらかんと社外のEDAツール会社に出してしまった。今から思うと犯罪的なノウハウの流出だ。そうこうしているうちに半導体が高度化し、第三者、専門メーカーのEDAツールを使わざるをえなくなった。それが1990年代から2000年代頭の話だ。

結果、現在何が起きているか。ファブレスとしてTSMCやサムスンに最先端のプロセスでの製造を依頼するには彼らが指定するEDAツールを使う必要がある。ファブレスはそのEDAツールのルールに従って回路を設計しないといけない。

他社のルールに従わざるをえないことの問題

――ルールに従ってはダメなのですか。

たとえば、熱や帯電を逃がすために回路の線と線にこれくらいの距離を開けるといったルールがある。ファウンドリーは歩留まり悪化の責任を取りたくないのでルールを守るよう要求する。だが、ルール通りにやったらマージンばかりで競争力のない商品になる。昔は自分たちでルールを決めていたから、ここはサボればいいというのがわかった。今は見極めができなくなった。

10年くらい前まではTSMCに行って「このルールはなぜ必要なのか」と尋ねたら答えてくれた。「ここはマージンを取り過ぎている」と言えばルール破りも許容してくれた。日本へのリスペクトがあったから。今はダメだ。

もう日本勢は設計でも世界を追随できなくなった。先端工場のそばでしか先端のルールはできない。日本では何もできない。日本勢がTSMCの5ナノや3ナノのプロセスを使おうとしたら、それが使えるケイデンスかシノプシスのEDAツールを買ってきて、言われた通りに設計するしかない。それでは本当に高い競争力を持つ製品はできない。

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